第1話 

 この世界に永遠なんて存在しない。

動物は死んでいくし、植物は枯れていく、物は朽ちる、人は死ぬ。いつか終わりが来るのをわかっているのに、なんでそんなに一生懸命になるんだろうか。この先、名を残して未来の人間に讃えられるのはほんの一握り。いや、現代社会においてそんな人間が現れるのだろうか。否、それは誰にもわからないのである。あくまでも今のは俺の考えなのだ。


とにかく言いたいことは、努力したって無駄になる、ってこと。ほんの2,30分前までは乗り気でかけていたアーティストの曲も今では鼓膜を振動させるだけの騒音になっていた。が、しかし、それにいきなり終止符が打たれた。


「おい上杉、お前さっきっから俺の話聞いてねえと思ったら音楽なんか聴いてたのかよ」

「宮本…」


俺に名前を呼ばれた男は宮本和也。金髪に染めた頭によく映える赤のピンはバツじるしの形をしてこめかみにつけられている。こいつとは高1のときに同じクラスになって以来、なぜか一緒に行動をともにすることになった友人である。


「聴きたかったらどうぞ。もう飽きたところ」

「お前なぁ、仮にも今は授業中だぜ?お、これ最近はやってるバンドじゃん」

「って言っても、この騒がしさじゃ意味ないだろ」


右手に持っていたシャーペンをまっさらなノートの上に転がして頬杖をつく。目の前に広がる黒板の中央には白チョークで “自習” と端的に書かれているだけ。なんの面白みもない。教壇に立つものがいないと分かった以上、静かに自分の席について勉強するなんて、クラスの委員だけだろう。ほとんどの人間が席を離れ、グループを作って座談を始める。


高校生なんてそんなものだ。規制する人間がいなければ自由になってしまうのである。もちろん俺も、宮本も例外ではないわけで。


「…この曲、そんないいか?」

「誰かの影響だろ。そんなハマるような曲じゃなかった」


一曲聴き終えたのであろう目の前に座るコイツはつまらなそうな顔をして、イヤホンをスマホに突っ込んだまま俺の机の上に置いた。


「な、夏休みどうする?」

「どうするって?」

「どうせ今年も予定なんかないんだろ?」

「まぁな。お前は引くほどありそうだな」

「来年は受験生だぞ?俺は頭よくねぇから来年の今頃勉強に追われる予定なんでね。遊べるうちに遊ぶしかないだろ」

「…お前、なんで俺みたいなやつとつるんでるんだ?」


見た目からもわかるように宮本は派手なルックス、他人を楽しませることが得意な性格上、クラスでも人気、という部類の人間である。それに比べて俺は特にこれと言ってずば抜けたものもなく、部活にだって入っていないわけで。強いて言うなら勉強が少しできるくらい。平々凡々な男子高校生なのだ。


「…お前、それ自分で言ってて悲しくないのか?」

「事実だし」

「お前なぁ…」


呆れたように言うと考える素振りをした。が、コイツの考える素振り、というのは9割型形だけだ。どうで今も何も考えていないのだろう。


フッと頭を上げ、俺の方を見ると言い放つ。


「俺が誰と仲良くするかは俺の好きだろ」


なんて、さも平然に言うと白い歯を見せて笑った。


「…物好きなやつだな」

「よく言われる」


宮本の静かなつぶやきをかき消すかのように授業の終了を知らせるチャイムがなった。

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死なない少女と余命を受けた少年。 白咲 @shirosaki04

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