第4話

「なんやねんそれ」

「まぁ聴けって。セレブ妻の身に付けていたアクセサリーで一番高いのは結婚指輪、左手の薬指のそれ。彼は揉み合いの中で、それを奪い去ろうとしたけれど、Aさんが来る足音がした。そりゃそうやろうな。わざわざ人気のないところを選んだのだから。


動転した犯人は、本当は殺すつもりもなかったのに、刺してしまった。するとセレブ妻は悲鳴をあげた。確実にAさんはやってくるでしょう。そして、犯人は、こう思ったはず。きっとAさんもそこのセレブ妻から金品を盗むだろうと。でも、その中でも最も高価な結婚指輪が無いことは一目瞭然、するとAさんは血眼になってでもこの近くにいるはずの結婚指輪を盗んだ自分を追いかけて盗みに行くだろうと。だから、犯人は通常ならば点検しないところに指輪を隠した」ここまで言い切ると、幹人はもったいぶるように押し黙った。


「なにその無茶苦茶な犯人は。仮にセレブ男が紹介されていたとしたら、どこに隠したんだよ」

幹人はニヤっと笑う。

「男女差なんて幻想にすがると、答えを間違えるんだよ。犯人は、スカートの下から手を入れて、さらにショーツの下、女性器か肛門のどちらかに指輪を隠した。仮にセレブ男だとしても、幸運なことに男にも肛門はある。隠し場所には困らない。そのおかげで、仮にAさんに見つかったとしても指輪を持っていないから疑われて殺されることはない。犯人の狙い通り、セレブ妻には指輪が無かったのでAさんは近くにいるであろう盗人を探しに行った、と犯人は考えた。その隙に犯人はセレブ妻の下半身に隠した指輪を奪って逃げていった。そのときの傷や下着の乱れは、まるで死姦されたようなものだった」



「そんなん分かるわけないやん」

「いやいや、難易度はすごく低かったはず。ヒントもあげてたやん。見ても分からないものについてのクイズって」

「あぁね。いや、それでもさ。そんな犯人のことなんか分かるわけないやろ?」

「誰も犯人のことが分かるとは言ってない。これで分かるのは、俺と倫太郎の頭の使い方くらいやろ? 自分が想定できる犯人像しか思い付かないわけやし。倫太郎は性欲を満たしたい。俺は働かずに金がほしい」

テレビにうつる先程とは別人のセレブ妻に倫太郎はブスがと罵って中指を立てた。人の容姿は関係ないやろと倫太郎をたしなめてから、幹人は両手で中指を立てた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

けだものどものダイアログ 古新野 ま~ち @obakabanashi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ