第2話 おっさんは、人助けをする

「ふぅ…………水が無料ってのは助かった。喉が渇きすぎて死ぬところだった」



 ヤマトは、ペットボトルのフタを閉めながらそう言った。この『レンタル』というスキルは、基本的に必要最低限の物は無料で手に入れられるらしい。しかし、制限もある。1日に2回までだ。水の量は1リットルだ。考えて飲まねばならない。



「それにしても…………街が一向に見えねえなぁ……」



 草原の切れ目がなく、どこまでも続いている。もしかしたら、今日は野宿なんてことも…………いやいや、そんなことは考えたくない。



 野宿、という言葉にハッとするヤマト。




「あ、そういえば、お金、一銭も…………いや、一ケルも持ってねえよ…………」




 金がなければ宿には泊まれない。万事休す。




 ヤマトがそんなことを考えていると、奥の方から何か人影のようなものがこちらに走ってくるのが見えた。その人影はやがて鮮明になっていく。それは、少女だった。涙目で必死に走っている。その後ろには、数体のゴブリン達が追ってくるのが見えた。



 おいおい、冗談じゃねえよ!? 今の俺じゃ、ゴブリンにすら勝てねえよ!!




 しかし、追われている少女を無視することも出来ない。葛藤するヤマト。



「おい、そこの少女! こっちだ!!」


「へ…………?」



 一瞬呆けて立ち止まってしまう少女。しかし、ヤマトは構わずその手を引き、全力でゴブリンを撒くことに専念するのだった。




◇◆◇◆◇



「ふぅー…………やっと撒けたか………」



 ヤマトは岩陰に隠れながらそう言った。件の少女はヤマトの隣にいて、驚いたような目でヤマトを見つめていた。その手には、少女の武器と思われる弓が握られていた。



「えと…………あの、あ、ありがとうございます」



 少女は緊張しながらもヤマトに礼を言った。



「いやいや、気にすんな。ただのおっさんの親切心だ」



 ヤマトは場を和ませるようにそう言い、ふっと笑って見せる。ちょっとカッコつけたつもりだ。




「えと、でも…………」


「喉、渇いただろう? これを飲むといい」



 ヤマトはそう言うと、スーツのポケットに手を突っ込むふりをしてスキル『レンタル』を発動。水をもう一本取り出した。取り敢えずこれでこの少女を落ち着かせる。



「あ、ありがとうございます…………」



 少女はおずおずとそれを受け取ると、それを飲もうとする。しかし、ペットボトルを知らないようで、どう飲んだら良いのかわからず、ペットボトルをあらゆる角度から見る少女。



「貸してみろ」


 

 ヤマトは少女からペットボトルを取った。



「これはこう開けるんだ」



 ヤマトはペットボトルのキャップを回して、開ける。少女はその光景を珍しそうに見ていた。



「ほれ」



 少女は、ヤマトが差し出したペットボトルを受け取ってちびちびと飲み始めた。



 それにしても…………この少女………異世界の人だよな? ってことは、街に案内してもらえば、路頭に迷わずに済むじゃん!



 ヤマトは、思わぬ幸運に内心でガッツポーズした。しかし、肝心のもう一つの問題が解決していないことに気づく。そう、金だ。結局金がなければ宿にも泊まれない。街で野宿する羽目になるだけである。



「あの…………これ、ありがとうございます」



 ヤマトが解決策を考えていると、少女はペットボトルをヤマトに返そうとする。しかし、ヤマトとしては、これを受け取るわけにはいかない。



「いや、いいよ。それは君にあげよう」



「で、ですが………………」



 それでもペットボトルを返そうとする少女。流石に少女の飲んだペットボトルを自分が飲めるはずもないので、何とか説得して少女に持たせる事ができた。ロリコン認定などされたくないからな。



「そういえば、自己紹介がまだだったな。俺はヤマトっていうんだ。君は?」



「わ、私はシルクと申します…………。先程は助けていただいてありがとうございました。なんとお礼をすればいいか…………」



「いやいや、大袈裟だろ。俺は君を助けただけだぞ?」


 ヤマトは少女の言葉に苦笑してそう答えた。



「いえ、大袈裟などではありませんよ。冒険者の方が、パーティーメンバー以外の冒険者を助けるのは、珍しい事ですので…………普通は助けませんよ。それに…………」



 シルクは更に言葉を紡いだ。



「見たところ、貴方は冒険者でもなさそうですし…………尚更です」



 少女はヤマトのスーツを珍しそうに見た。このようなスーツは異世界にはないので、少女の反応は至極当然。



 う~ん…………お礼か………。あ、そうだ。街を案内してもらえばいいか。今の流れでいけば自然だろうし。お金の方は…………まあ、後でいいか。



「じゃあ、街まで案内してくれよ。俺さ、遠い田舎から来たから、街がどこにあるのかもよくわかんないんだよね」



 ヤマトは、曖昧に濁してそう言った。異世界から来たなどと言っても信じるわけがない。



「それならお安いご用です!」



 少女はそう言うと、こっちですよ、と街へと案内し始めた。




 街に着いたらスーツも変えなきゃな。これじゃ目立つだろうし…………。




 ヤマトはそんなことを思いながら、少女に着いていくのだった。


 



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スキル『レンタル』で異世界を行く Mei @reifolen

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