スキル『レンタル』で異世界を行く

Mei

第1話 異世界へ

「さてと…………家に帰って飯でも………ふわぁ………ねみぃなぁ」


 俺ーーー岩永大和は、家の近くのスーパーから家に帰る途中である。今日も夜遅くまで仕事があったせいで、スーツ姿のままだ。



 今年で34歳。独身。そろそろ結婚したいという願望もあるのだが…………相手がいないだけだ。毎日家に帰ってただいまーとは言っているものの、返事がない。ああ、独身であることが恨めしい。このままの調子で行けば、偉大なる魔法使いへの道のりも近いだろう。



「あ、本屋にも寄らないと。俺の好きなラノベの新刊出てるんだった」



 俺はそう思い直して、家へ帰る進路方向から90度右へ進む。そこを真っ直ぐ行けば、こじんまりとした本屋がある。




 あー…………ここんとこ、休みもねえし、今日なんかニ徹だし。挙げ句の果てには女性社員にも鼻をつままれて遠ざかられる始末。本当、最悪だ……。




 大和は眠そうに欠伸をしながら、そんなことを思った。





「ーーーおい、ーーこーーーぶねえぞ!!」





 何か声が聞こえたが、何を言っているか分からなかった。それぐらいに今の大和は、眠かった。






ププーーーーーー!!







 大きなクラクションが響いた。大和がふと前を見てみれば信号は赤。左からは大型トラックが走ってきていた。




 

あ……………………。




 大和が気づいた時にはもう遅かった。







ガシャアアアアアーーーーーン!!





 大和は大型トラックにはね飛ばされて、地面に勢いよく転がり落ちた。頭からは大量の血が流れている。



「きゃあああぁぁぁぁ!!」


「お、おい、早く救急車を呼べ!!」



 人々の慌てたような声が聞こえた。



 ああ…………なんか、段々力が…………抜けていく…………。




 大和はニ徹のせいで眠すぎたのか、痛いと喚くこともなくーーーー安らかに意識を落としていった。




◇◆◇◆◇




「んぁ………………ここは………?」



 俺は確か大型トラックに轢かれて死んだはずだが…………どういうことだ。



 大和は立って辺りを見回す。どっからどうみても、一面に広がるのは草原だ。明らかにコンクリートではなかった。念のため自分の頭をさすってみるも、血は特についていなかった。どうやら無事らしい。



「まさかとは思うが………………」




 大和は、はは、と苦笑すると、ステータスオープン! と唱えてみた。ここがもしも異世界なら・・・・・・・・、ステータス画面やら何やらが出るはずだーーーそんな期待を込めて。





「って、出るはずもないか…………」



 いい歳したおっさんが何やってんだか…………と自虐の念に刈られる大和。しかし、次の瞬間ーーー。








NAME:ヤマト Lv.1  職業:『サラリーマン』



【スキル】


『レンタル』


『異世界言語』







「ほ、本当に出た…………」



 大和ーーーもとい、ヤマトはステータス画面が本当に現れたことに驚いた。ステータス画面をまじまじと見つめる。




 ………………おいおい、何だよ、このネタみたいな職業は!? サラリーマンってなんだよ、サラリーマンって!! それにスキルの方だって、なんだよ、『レンタル』って!! サラリーマンとどんな関連があるんだよ! 『異世界言語』だけじゃねえか、役に立ちそうなものは。





 自分のステータスに突っ込みまくるヤマト。レベルは記載されているが、HPやMPといった項目はないらしい。ヤマトの知ってるステータス表示とは大分違った。




「はぁ…………何だよ。ったく、チートスキルがあるかと思えば、ゴミスキルじゃねえか」




 こんなんでどうすりゃいいんだよ、と溜め息をつくヤマト。




「…………取り敢えず街を探すか。ここにいても危険だしな」



 異世界なら魔物や魔獣だっているだろう。襲われるのはまっぴらごめんである。



「でも…………肝心の方角がわかんねえんだよなぁ………」



 そう呟きながら辺りを見回すヤマト。どこを見渡しても草原が広がるばかりで、方角などさっぱり分からない。



「はぁ…………自力で探すか………」



 ヤマトはこれからの事を考え、気が滅入るとばかりに溜め息をついた。するとーーーー。






◇地図を『レンタル』しますか? (1枚50ケル)  YES/NO







「おお! さっきは使えないスキルかと思ったが、捨てたもんじゃーーー」



 そこまで言ったところで、ヤマトはカッコ書きで1枚50ケルとあるのを見つけた。当然、ここのお金など持ってないし、そもそも単位すら知らなかった。



「やっぱ使えねえじゃねえか!!」



 結局、自力で探す羽目になりました。




 

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