DMから始まるレンタルサキュバス

赤坂知葉也

第1話 「私を買いませんか?」

現在2019年、23:15。

俺はパソコンをカタカタと打ちながら睡魔と戦っていた。

今日も今日とて残業、俺は会社という監獄に閉じ込められ残業という名の拷問を

受けていた。

「死にたい」

この言葉を今日一日で何度言ったことか、自分でももうわからない。

いつからこの言葉が口癖のように言うようになったのだろうか

入社当初は仕事に対し前向きで、新入社員として社会の歯車に貢献していた。

しかしいつからだろうか、俺は歯車ではなく社会の奴隷になっていた。

いや、奴隷より家畜かな

そう、俺は今や社会の家畜なのである。

社会に貢献できるように飼育され、立派になればもっとキツイ仕事を任され、

役に立たなくなれば切られる。

こんなことなら好きなことを好きなだけやっておけばよかった。

今の俺には自分の時間なんてない。休日だろうが体調が悪かろうが監獄に戻され働かされる。

「まったくもって死にたいよ」

俺がいつものように空気を吐くかのように口癖を吐くと前の席のやつが顔を上げた

「独利、仕事の進捗状況はどうだ?」

「まぁ、24:00には帰れそうかな。今日も終電で帰るさ」

「陰薄、お前はどうだ?」

「似たようなもんさ、帰れるなら一緒に帰ろうぜ」

こいつは同僚の陰薄須美。女みたいな名前だが充分男だ。

こいつとは入社当初からの付き合いで結構長い付き合いになる。

たまに飲みに行っては会社の愚痴を言い合うようなそんなよくある関係だ。

俺と陰薄はパソコンと向き合い、仕事に集中していた。

静かな部屋にはキーボードを叩く音だけが響く。

そんな静寂な空間を破ったのは陰薄だった

「なぁ、独利。最近t○itterで噂になってる淫魔のこと知ってるか?」

「あぁ、なんかあれだろ。精力を吸われて死ぬとかなんとか」

その噂なら俺も知っていた。

会社の少ない休み時間に俺はよくtwi○terを見る。

情報社会である現代においてSNSは情報を入手したり会社の愚痴を吐くにはうってつけの場所だからだ。

「俺も気になっていろいろ調べてみたんだけどよ、その淫魔ってのは精力を吸う前に吸う相手にDMを送るらしい」

「t○itterのDM機能か?」

「そうそう。DMで具体的な時間と場所を伝え、その時刻その場所に行ったやつはその後twitterにまったく顔を出さなくなるらしい」

「なるほどな」

俺は話を聞きつつ手はキーボードを打っていた。

「だがおかしいよな、精力吸われて死ぬならニュースになってもおかしくないのに」

「そこなんだよ!独利!」

「俺のフォロワーだけでも5人は顔を出さなくなった。もし死んでいるならニュースになってもおかしくないのにテレビではそんな話まったくしてないんだよ」

「この噂は謎ばかりだな」

俺は正直この噂を信じていない。

興味はあるが、そんなことを考える余裕もなく仕事で精一杯だ。

だがもし、淫魔なんてものが存在するなら俺を殺して欲しい。

まぁ今は仕事が溜まりに溜まっているから殺されると周りに負担をかけてしまう。

俺は他人に迷惑をかけるのだけはごめんだ。

そんなことを考えていると時刻は24:00。

仕事も気づけば終わっていた。陰薄の方はどうだろうか

「陰薄、仕事は終わったか?」

陰薄は頭は上げず、手だけ上げ振って見せた

「俺はまだもう少しかかりそうだ・・悪いが先に帰っててくれ」

陰薄の声はもう疲れ果てたような声色だった。

「りょーかい。じゃあまぁお先にな」

「おぅ、お疲れさん」

俺は荷物をリュックの中に入れ、帰ろうとした。

「あ、そうそう独利」

「なんだ?」

俺は振り返り陰薄のデスクの方を見た。

「さっきの話の続きなんだがその淫魔、DMの冒頭で『私を買いませんか?』って送ってくるらしいからそのDMが来たら無視することをおすすめするわ〜」

「肝に命じておく」

俺は陰薄からの忠告を軽く受け流し、帰路についた。

音楽を聴きながら駅に向かい、改札を抜けた後ホームで最終電車が来るのを

待っていた。

ホームで最終電車のアナウンスが聞こえ、俺は座っていたベンチから重い腰を上げた。

それと同時なのか少し遅めか携帯に通知を知らせるバイブが鳴った。

俺はこの時なぜ携帯を見たのか、まぁ必然的に見ることにはなっただろうがこの後携帯を見たことに俺は後悔する。

携帯画面に映った通知内容はこうだ

『私を買いませんか?』

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