倒れゆく馬をみた

あれはいつだったか

陽炎にゆれながら倒れゆく馬をみた

北の牧場をさまよったときか

競馬場のターフであったかもしれない

或いは夢か、過労死の報を聞いた

快晴の街角であったかもしれない


なぜ、おまえが倒れたか

なぜ、おまえが息絶える

その眼に何がうつろうか

とおくとおくたくさんの

蹄のおとが地をゆらして


あぁ!

もう狂い馬だ、狂い、馬だ

尻に火をつけられて、幸運の前髪を

掴め!と急かされる、皆、狂い馬だ

産めよ、増やせよ、やめてくれ

狂い馬!来るいまだ、走れっ!

鞭がはいる、無知なのがいる

焼き尽くされて、いく、理想とか

正しさ、なんて掴めないものに

尻に火をつけられる毎日だ


なぜ、おまえが倒れたか

なぜ、おまえが息絶える

その眼に何がうつろうか

なぜ、なぜ、なぜ、と

もう聞かないでくれ


陽炎のなかに

おまえは歩み去る


走る

ことも

働かされる

ことも


なく


もう、なぜ、などと

聞くものがいないところへ

たおれゆく

馬を

うつくしいうまをみた

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新詩集 かげおくり 帆場蔵人 @rocaroca

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