アルバム

勝利だギューちゃん

第1話

僕がまだ小さい頃、そう幼稚園のころだった。

隣に、外国人の女の子が家族で住んでいた。

歳は同じで、とても仲が良かった。


子供にとって、国籍なんて意識しなかった。

今にして思えば、日本語が堪能だったが、それが当たり前と思っていた。


しかし、その子は突然、家族と共に母国に帰国した。

寂しかったが、考えてみれば当たり前だった。


その子は、両親の仕事の都合で、日本に来ていただけだったのだ。


その引っ越しの当日・・・

「ねえ、たっくん」

「どうしたの?フランちゃん」

「これ」

「何これ?」

フランちゃんから、渡されたもの・・・


それは、アルバムだった。


「このアルバムには、私とたっくんの想い出があるの」

「見ていい?」

「今はだめ」

「どうして?」

「いつか、たっくんが本当に困った時に開けてみて」

「どうして?」

「きっと、たっくんの力になってくれるから」


そういって、フランちゃんは僕を抱きしめて、去って行った。


それから、10年が経った。

僕も高校生になった。


アルバムはまだ、開けていない。


「ねえ、母さん」

「どうしての?」

「昔、フランちゃんって子が、近所にいたよね?外国人の・・・」

「あんた、覚えてたの?とても仲良かったね」

「うん、あの子は、どこの国の子だったの?」

「知らなかったの?ドイツの子よ」

「そっか・・・」


ドイツ人は日本人と、国民性が似ている。

仲が良かったのは、それもあるかもしれない・・・


さらに10年が経った。

僕も社会人になった。

子供の頃に夢見ていた仕事には、就けなかった。


でも、何とかやっている。


さらに10年が経った。

僕も結婚して、子供が生まれた。

ローンは30年あるが、家も買った。


ペットもいて、まあ幸せ組と言える。


アルバムはまだ、開けていない。


さらに10年経った。

子供はそろそろ、進路について考えていた。

20歳までは、親の責任。

何とかしてやりたい。

妻とは、まあうまくやっている。


アルバムはまだ、開けていない。

時期ではないと、思ったからだ。


さらに10年経った。

子供たちも、独立して幸せになっている。

長い気だった両親も相次いで他界。

それと入れ替わるように、孫が生まれた。


アルバムは、まだ開けていない。


さらに10年が経った。

長年連れ添った妻が、他界した。

大勢の涙に包まれていた。


子供の家族が、面倒見てくれるといったが、それを拒んだ。

アルバムは、まだ開けていない。


そして、ついに臨終の時を迎えようとしていた。


「もう、いいかな・・・」

僕は、あのアルバムを、ようやく開ける事にした。


考えてみれば、子供の事なので、たいした事は書かれていない。

でも、開ければ忘れてしまうようで、怖かった。


開けてみた瞬間に、驚いた。

写真は一枚もなかった。


変わりに、手紙が一通入っていた。

それは、いかにも子供らしい字で書かれていた。



【たっくん


たっくんが、このアルバムを見ているのは、

おそらく、もうおじいちゃんになってるね。


たっくんのことは、なんでも、おみとおしなんだから。


わたしはいま、どうしているのかわからない。


でも、たっくんのたすけになるというのは、ほんとうだよ。


たっくんがあけなかったというのは、じぶんでがんばれるということだね。


でも、もういね。


そろそろ、もどろうか・・・


あのころに】


ここで終わっていた。


確かに・・・

すぐに開けていれば、頑張る事が出来なかったかもしれないな。


静かに目を閉じた。

そろそろだな・・・


「たっくん」

「フランちゃん?」

「久しぶりだね、たっくん」

「あの頃のまんまだね」

「私は、たっくんの想い出の中の人だからね」

「確かに・・・」

「そろそろ逝く?」

「・・・うん・・・」


こうして僕は、幕を下ろした。

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アルバム 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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