8ルート目 被害者一人目

 急に現れた神様から予言に似た宣告を受けてビクビクしながら過ごしていたものの、特にこれといって特筆すべきことがない。


 取り越し苦労もいいとこだとため息をついて、下駄箱で靴を取り替えていると、少し離れた場所で九龍院 麗羅が下駄箱を開けた。


 ––––––バラバラバラバラッ


 落ちたのは大量の手紙。シンプルなものから女子の好みそうな便箋まで様々。


「す、すげー。モテモテじゃん」


 なんか悔しい。ゲームの中でしか見たことない光景だ。これが男だったら嫉妬の炎メラメラなわけだが、相手が女子だとこう・・・煮え切らない。


「あ、あぁー・・・うん」


 当の本人は困惑気味だ。当事者とはそんなもんなんだろうか。彼女はいそいそと手紙を急いで拾うと走り去ってしまった。


「・・・どうしたんだ、あいつ?」


「あーなんだか、最近やたらモテてるみたいだな」


「うおっ!?びっくりした!!」


 俺の独り言に返してきたのは、背後からひょっこり月山だった。お前ギャルゲー的世界観の癖に出番多すぎな。


 月山は親友ポジらしく、情報通である。

 どうやら、九龍院 麗羅はなんの前触れもなくモテだしたらしい。


 それだけだったら単なる羨ましい話に過ぎないのだが、それが男にも女にも告白される毎日らしい。勿論お付き合い的な意味だ。


(これだ・・・絶対これだぁあああっ!!)


 エロちゃんが言っていた試練。無差別な告白の連鎖はあまりに常軌を逸している。それこそ神でもないとこんなこと出来ないだろう。


「どした?難しい顔して」


 こちらの気も知らないで月山は呑気なやつだ。これが仮に神様の試練だとしたら、めちゃくちゃ迷惑にも程がある。


 てっきり自分に降りかかると思っていたのに周囲に影響があるとは・・・。


「いやー・・・俺にどないせいと、そんな思いを天に届けていたんだよ」


「???」


 月山はわけがわからないといった表情で先に教室へと向かっていってしまった。


 とりあえず、九龍院 麗羅に話しを聞いてみるしかない、か。


 そうしないと俺、強制的に孤独ルート突入なわけだし。



 ※※※



 放課後。


 ここまでの数日、あまり気にしてなかったけど、思えば日に日に九龍院 麗羅は元気がなくなっていったかのように思う。


「よ、よぉ」


「・・・はぁ、悪いけどアンタに構ってる暇はないの」


 片手を上げて挨拶したら軽くあしらわれてしまった。やはり、これまでの勢いは失われている。


 九龍院 麗羅は席を立って、教室を出て行った。無論ここはストーキング一択である。


 すると、踊り場で、空き教室で、校舎裏で、伝説の樹の下で、下駄箱で、校門で告白されまくっている。


 断言しよう、これは疲れる。律儀に指定の場所に行くのだから根が善人なのだろう。しかも、一つ一つ丁寧に頭を下げて断っているものだから俺の罪悪感ゲージも半端ない。


「これはなんとかしないとやばいよなあ・・・」


 学生寮に向かう疲れた背中を見ながら呟いた。

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冴えないおっさんのギャルゲー転生記〜謎に設定されたMPについての考察〜 29294 @29294

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