第32話 こんなベタベタな伏線回収なんぞしなくていい
「エイプズが街の近くに?
普通ではありえませんが……それは確かですか?」
ギルドの受付嬢――名札には『フローレリア』と書いてある――に、たった今見てきたばかりのことを説明すると、怪訝な顔でそう答えが返ってきた。
どうにも気になったので、街に戻るなり冒険者ギルドへ立ち寄ってみたのだ。
エイプズ、というのは、猿の魔物の名前だ。
宿のオヤジから名前を聞くのを忘れていたので、説明に手間取ってしまった。
「実際にその姿を見たわけではないんだが、魔力の残滓を見た限り、少なくとも地面から木に飛び移って街から離れていった魔物らしきもの、は間違いなくいたと思う」
「そうですか。
確かに、この辺で木の上を移動するタイプの魔物はエイプズである可能性が高いですね。
いくら大量発生の時期とはいえ、基本的に臆病なので人の集まる場所へは近づかないのですが」
言うフローレリアの表情は暗く落ちていく。
「なにか、異変が起こっている、ということか」
「おそらく、ですが」
ふぅむ。
今回のオヤジからの依頼の内容は『魔の森で増えている猿の魔物の退治』だ。
だが、どうにも単にそこへ行って退治すればいい、という話ではなくなってきたな。
イレギュラーはつきもの、とはいえ、初手からというのは勘弁してほしいものだな。
「明日も森ヘ向かわれるのでしたら、くれぐれもお気をつけください」
「わかった、ありがとう」
「もしなにかありましたら、ギルドまで報告をお願いします」
「ああ」
必要な話は聞けたので、そのままギルドを出る。
外はもうすっかり夜になって、空気がだいぶ冷たくなってきたな。
ふと、シノアのひんやりとした手を思い出す。
早く宿に戻って温かい飯が食べたいものだ。
◇
「これは……」
翌日。
再び、エイプズの痕跡を見つけた辺りへ来てみたのだが……。
「増えてるな」
「はい」
昨日見た時は、ぽつぽつ、といった程度でしかなかった地面の窪みが、明らかに何かがあったと分かる程に増えていた。
つまり、夜のうちにエイプズの群れが北門の近くへ来て何かをしていた、ということになる。
しかし、
「何かをしていた、という雰囲気はないな」
周りを見渡しても、この窪み以外に木がなぎ倒されているなどといった光景は見られない。
これではまるで――
「そうだ、まるで、
「怯えて、ですか?」
「あくまで仮説だがな。
森の奥に、夜だけ活動し朝には眠る『何者か』がいたとする。
そいつに見つからないように、逃げて来たのだとしたら。
朝になって、そいつが眠るタイミングで、今度は人間から逃げるように森に帰ったのだとしたら。
このエイプズの不思議な行動にも説明がつくのではないか?」
「確かに、辻褄は合いますね。
けど、だとしたら、その『何者か』というのは一体……」
「わからん。
わからんが……少なくとも俺らにとって非情に都合の悪いものであろうことは、間違いないだろうな」
そう。
『一部、凶悪でレベルの高いヤツ』
だ。
ったく。
こんなベタベタな伏線回収なんぞしなくていいってのに……。
無限の文字使い~スキルを作って異世界無双 ただみかえで @tadami_kaede
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