POP:S(ポップス)
@pop_s
第一話 挫折と転生
「また会おうね〜!」
「お前も頑張れよな!」
高校の卒業式が終わり、桜が舞い散る体育館裏では、希望に満ち溢れた連中が至る所で別れの言葉をかけ合っていた。
俺、三枝さえぐさ 帝みかどは、合格を確信していた国内最高位の大学受験に失敗してからというもの陰鬱な日々を送っていた。
「元気出せよ! 帝!」
「うるせぇよ」
肩をバシバシと叩きながら声をかけてきたコイツの名前は佐藤。高校で一番つるんだ奴だ。
「そんな顔すんなって。来年もあんじゃん。我が校の皇帝であり、ドS様でもあらせられる御方がそんな顔すんなよ。最近聞いてねぇからよ、卒業記念にどデカいのくれよ」
「黙ってろ。周りが勝手に呼んでただけだろ。大体な、夢と希望に満ちたお前に俺の言葉なんて響かねぇよ。せいぜい大学でいい女見つけてカモられてヘコめ。んで退学してこい」
「ふぅ〜! それそれ! それだよ! 帝っちはそうじゃないとよ! でも今のはSっていうかただの悪口じゃね?」
「お前が望んだんだろ。わかったら黙って口を閉じてろ」
「さっすが〜! おーい田中! お前も記念に”ドS様”からありがた〜い言葉もらっとけ!」
くそ。どいつもこいつもいい気なもんだぜーー。
それから月日は流れ、いつの間にか卒業から五ヶ月が経っていた。
外は猛暑日が続いていたが、俺は快適な自室から出ずにダラダラと過ごしている。
この数ヶ月やったことといえば、ネットでくだらない動画を見たり、引きこもりをきっかけに始めたネトゲぐらいなもんだ。
「おい! 前出てくんな! バカかよ!? ……おいおい嘘だろ? 落ちたのか!? てめぇの装備は何のためにつけてんだ、新兵かよったく!」
今日も今日とて徹夜でゲームに精を出していたわけだが、頭の悪い奴が多すぎて腹が立つ。
ピピピピピッーー。
「ん? 敵か?」
ピピピピピッーー。
「違うな。なんだよこの音ーーってスマホか。誰だよこんな朝っぱらから」
佐藤かよ……ったく、こっちは今お前と話してる場合じゃねぇんだよ。
面倒臭いと、俺はすぐさま終話ボタン押してスマホを机の脇にやるーーが、間も置かずにまた鳴った。
クソ。わかったよ!
「お! 帝? 元気か?」
「……おう、お前は……って、聞くまでもなく元気そうだな」
「当たり前よ! つーかお前今日暇? 久しぶりに一緒遊ばね?」
「あぁ? めんどくせぇから俺はいいわ。外出るのだるいし」
「いやいやそんなこと言うなって! 今日田中とかとも集まるんだよ。だからお前も来いって」
お前お前って……こいつからお前なんて呼ばれたの初めてだな。大学行って調子乗ってんのか?
「お前らだけで好きに遊んでくりゃいいだろ」
「つれないこと言うなよな。今日バイト代入ったから奢ってやるよ! だから来いって」
奢ってやる……か。上から目線で何様だこいつ。
「なぁいいだろ久々なんだし会おうぜ!」
相変わらずうるせぇ奴だな。でもまぁ奢りなら食って帰るだけだし付き合ってやってもいいか。
「わかったよ。じゃあ行ってやるけど、何時にどこ行けばいいんだよ」
「午後六時に駅前でどうよ」
「あぁわかった。んじゃまた後でな」
はぁ。めんどくせ。でもまぁ体がだらけちゃ健康的にだらけることもできねぇしな。
それから俺は二日ぶりの睡眠を取ってシャワーを浴びた。
服装なんてどうでもいいだろと、ジーパン、白Tシャツ、薄手の黒パーカーを腰に巻いた後、高校時代よく履いていた赤いスニーカーを履いて家を出た。
「夕方だってのにまだこんな暑いのかよ。そろそろ髪切りに行くか。大分野暮ったくなってきたしな。いや待てよ……別にいいか。外出なきゃいいだけだし」
まだ乾ききってない頭を掻きながらダラダラと歩くと、待ち合わせの駅前に到着したーーが、そこには佐藤と田中の他に見知らぬ女が三人いた。
てっきり佐藤と田中、いても他の同級生数人ぐらいかと思っていたのだが、状況説明を求めると、目的は女子大の奴らとの合コンだと告げられたのだった。
ーーカラオケに入って三十分が経った頃。
「へぇ〜! ミサちゃんテニサーなんだ! 俺はボクサー! 何つってね」
「何それ〜ウケるぅ〜!」
机を挟んだ先で、佐藤は隣に座るミサという女にくだらないことを言っている。
ったく、大学入って更に馬鹿に磨きがかかったなあいつ。しかも何で合コンがカラオケなんだよ、やるなら少しは店選べよな。それに何だこれ、普通は男と女別ですわるだろ。何で訳も分かんない女と隣で喋らなきゃいけないんだ、キャバクラかよ。
「ねぇねぇ三枝君は何かサークル入ってんの?」
「は? 入ってねぇよ。」
俺は不機嫌な態度を隠すこともなく答えた。
にしてもミキだったかこの女。大分厚化粧だな。
「へぇ〜! 結構きれいな顔してるし、そこそこ身長もあるからモテそうなのにもったいな〜い!」
「あぁそいつ大学落ちたから仕方ないんだよ」
「佐藤! てめぇ余計なこと言うんじゃねぇよ!」
机越しに両手を合わせながら佐藤がヘラヘラした表情でこっちを見ている。
それで謝罪のつもりかよ。田中は田中でユカとかいう女に締まりのない顔を晒してるし、こいつらこのレベルの女で満足って低レベルすぎんだろ。
「へぇ三枝君落ちちゃったんだ! あたしらK大だよぉ。 来年ウチに来なよ〜! そしたら後輩として可愛がってあげるからさぁ」
何なんだこいつの態度は。誰に向かって口聞いてんだよ。
俺がムカつきながら黙っていると、田中の隣にいたユカが体を乗り出してきた。
にしても、ミキにミカにミサかーー似たような名前の奴ばっかだな。
「ねぇねぇノリ悪くない? 折角だし何か歌ってよ〜!」
「あ? 俺は別にいいからアンタらで好きなの歌ってろよ。聴いといてやるから」
「えぇ〜! 何その言い方ぁ! 超俺様ぁ!」
「はは、こいつ高校の時のあだ名”ドS様”だったんだよ。口と態度は悪いけどいい奴だから」
佐藤の奴、また余計なこと言いやがって。
すると、俺の隣に座っているミキがその話を拾った。
「ドS様ってマジウケるぅ〜!」
やめろ……。それ以上俺にその顔を見せるな。
知能指数の低い女ばかりよくもまぁ連れてきたもんだと、イライラが更に募っていく。
「ねぇ話聞いてるドS様は何歌うの〜? あ、俺様だし、もしかしてビジュアル系とか歌っちゃう?」
こんな女でも生きていけるのかこの世界は。ほんとうゼェ。
「ねぇねぇドS様ってばぁ」
くそが……!
「ドS様もしかして大学落ちてへこんでんのぉ?」
「っせぇよ……」
「え? なになに? ほらマイク貸してあげるからぁ」
俺は馬鹿が差し出したマイクを平手で弾いた。
「うるせぇんだよ! 何が大学だよ! K大風情が調子乗ってんじゃねぇよ! あんなとこミジンコの脳みそさえありゃ誰でも受かんだろ! 大体なてめぇらみたいな馬鹿が気安く俺に話しかけんじゃねぇよ! 馬鹿が移んだろ!」
その刹那ーー。
バシーンッ!
な、なんだ? 何が起こったんだ?
俺は一瞬の内にさっき見ていた場所とは別の方を見ていた。
「あんたミキに何すんのよ! それにさっきから何様? 上から目線でさ! 大学落ちたからってあたしらに八つ当たりすんなよ! ミジンコはアンタの方でしょ!」
いつの間にか田中の横にいたユカが俺の前に来て座ってる俺を見下している。
つーか、待て待て待て。まさかこのユカって女、俺を今殴ったのか!? それになんつったこいつ……!
「あぁ〜そうだった忘れてたぁ。何様っていうか、ドS様だったわ! どうですか打たれた気分は? ねぇドS様!」
「……てめぇ、今俺を殴ったな……」
俺がそいつ睨み上げると、佐藤が机の上のジュースをこぼしながらドタドタと寄ってきた。
「み、帝っち抑えて抑えて! ユカちゃんもその辺でさ」
俺は目の前に立つユカを手で払い佐藤の前に立ち上がった。
「……ってろ、佐藤、お前は黙ってろ! 元はと言えばお前がこんな馬鹿を集めたからこうなったんだろ!」
俺の怒気に触れ、一瞬ビクつく佐藤だが、次は俺がマイクを払ったミキが貶けなしにかかってきた。
「あんたなんかさっさと帰ってゲームでもやって引きこもってろ! 二度と家から出てくんな!」
「んだとてめぇ! 黙れ! 汚ねぇ化粧ヅラしやがって! お前みたいなセンスない豚に言われる筋合いねぇんだよ! それにな、てめぇらみたいな馬鹿が行き交う外より家の中の方がましだ!」
ハハッ、田中は黙って静観か! 佐藤も田中もダメだ。こいつらとも今日で終いだな!
「じゃあな佐藤! 田中! せいぜい馬鹿な女と楽しめ! そしてもう二度と俺に連絡してくんな!」
ーーバタン!
勢いよく扉を閉めて店の外に出た俺は、噴き上がる怒りをそのままに繁華街を歩き始めた。
街ゆく連中がみんなヘラヘラしてて俺を見下しているように見える。
どいつもこいつもふざけやがって! 今に見てろ! 俺様にはふさわしい場所がいくらでもあるってことをいつか思い知らせてやる!
湯気が出てきそうなほど体内に熱を感じながら歩いてると、突然雨が降り出してきた。
「おいおいマジか……! ハハ……ハハハハ! 冷ませるもんなら冷ましてみろよ! 天気までもが俺を馬鹿にするつもりだっていうなら好きにしやがれ! こんな世界糞の集まりだ! どうせならその雨で全部流しちまえ!」
ちなみに、これが最後に口にした言葉で、最後に見たのはトラックのヘッドライトの明かり。
最後に聞いた音は、遠くの方から聞こえてきた救急車のサイレンだった。
そう、察しの通り。俺のロクでもない人生はここで幕を閉じたーー。
と思っていたのだが……。
次の瞬間、目に映ったのは中世のヨーロッパを思わせる街並みだった。
しかもその街を破壊しまくってる大量のトロール、というオマケ付きでだ……。
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