6-11 アモンとして生きる道

 俺は自分の根城であるニブルの居城に向かってあえて歩いて戻っていた。

 これまで手に入れた情報とこれからのことについて今一度ゆっくりと考えたかった。


 しかし俺が城に雇われている最終兵器の一部だとすれば、俺よりも城の主は強いということになるのだろうか。


「こんなばかげた力を持った俺より強いってことか? たかが人間の王が?」


 アモンは昔王に拾われて仕方なくとかではなく、自らの意思で王と共にいるようだ。


 前のアモンの感情などは情報として残っておらず、あくまでも記憶だけの保持になっているため、どんなアモンの考えがあったのかわからない。


「それになあ……」


 俺は足を止めさっきまで永遠と戦い続けていた荒野へ振り返る。


「なんか、戦いはもういいな……」


 敵と面と向かって顔をしっかりと合わせて戦っていた、四天王戦辺りから戦いの意欲は大きく削がれていた。


どうやらアモンになってから人、魔族を殺すこと、生かすことの重要性が地面に転がっている空き缶を拾うか拾わないかぐらいの価値観になっている。


 つまり生き物の命に対する執着というか、他人の命の価値というものが羅生学でいたときよりもはるかに低くなっているのだ。


 これは俺が一度死んだからなのか。


 それともアモンという魔族の根幹部分の意思を受け継いでいるからなのか。

 はたまた俺がただ単に無慈悲になってしまっているのだろうか。



しかし、人、魔族を殺すたびに胸に残る多少の罪悪感はもちろん好きにはなれないしこれからも好きになることはないだろう。


「まあでもアモンにとっては……きっとこれが普通だったんだよな」


 正直アモンの記憶を受け継いでからは、彼は強大な力を持っていて隠れながらも王の側近という名誉を持ち何でもできる、羅生学とは全く違う完璧であることをどこかで羨んでいた。

 ただ実際にそんな生活のたった一片を味わっただけなのに、なんだか戦いしか知らないアモンがあわれに思えてきて、羅生学とアモンという存在もそんなに大差ないような気がしてきた。


 もう一つさっきまで頭にこびりついて無理やり無視していた思考も、アモンと羅生が一歩近づいた気がしたときから、すっとなくなっていた。


「……やっぱり俺、死んだんだなあ」


 あの世界に未練がないかと言われれば未練は小さいものならいくらでもある。

 でもこんな強すぎる体を手に入れて、転生してしまったのだ。

 アモンを受け入れて、この世界で生きていくしかない。


俺の目からいつからか涙が溢れていた。涙は俺の高すぎる体温で蒸発することなく頬に伝っていく。



 ただ、ざわざわとうごめき気持ち悪かった心と、羅生に執着するようにずっと「死んだ」すっと温かくなったような、やっとアモンという魔族を認め、素直にアモンであるという自覚を持つことができた。


 俺はアモンとして生きる。



「……というわけで俺は王城に戻って……って寝てるのか」


 気づけばずいぶんと長々と語ってしまった。

 ふと酔っぱらっていたはずのリリスを見ると、実に気持ちよさそうにすやすやと眠っていた。


「自分から聞いてきたくせに……意外とマイペースだよな」


 俺は苦笑いを浮かべながら眠りこけているリリスの頭を軽く小突く。

 一瞬うっすらと目を開けて俺を見つめたリリスだったが、微笑を浮かべるとそのまま再び眠りについた。


「あんな血なまぐさい昔話でよく眠れたもんだな」


 リリスがどこまで聞いていたのかは知らないが、事実としてはただの人殺しの話だからな。まあここではそう珍しくない話なのかもな。


 そういえばあの時俺は戦いはしない、アモンとして生きるって決めたんだったけな。 

 結局やってることは羅生学のやりたいことを延長線でやっているだけだが、この世界で生きる覚悟はその時についている。


 長時間語ってしまったからか妙に肩が凝った気がする。

 俺は大きく伸びをすると、リリスの布団をかけなおしそっと部屋から出る。

 

 一階に下りると、自分用のカクテルを造り一人で飲むのだった。

 まあリリスに続きを離すのは機会があった時でいいかな……。


 俺は異世界ユグドラに来て、初めてゆっくりと酒を飲めた気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界バー『ジンジャー』 葵 悠静 @goryu36

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ