6-10 リーダーという名の情報のかたまり
「さてさて、次はどっから出てくるのかな」
今までの登場パターンは居眠り・床ぬけ・大量待ち伏せ……ああ入り待ちしてるやつもいたな。
「はっはっは!敵地で気を抜くとは笑止千万!はっ!」
威勢のいい声が聞こえたと同時に頭上に目線を向ける。
目の前で一人の男が宙を待っていた。
そして、重力に従って地上に落下してきて、地面に見事に片足をついた……直後にボキ!という鈍い音が俺の耳にまで届く。
男は決め顔から一転苦悶の表情を浮かべてその場でうずくまった。
「ちょ、ちょっと待って……死にそう、人って足おれたら死ぬんだっけ? あれ? なにこれ、すごい痛い」
「おいおい、大丈夫かよ」
さすがに俺は目の前の男にあわれみを覚え一歩近づく。
「まてまてまて! 落ち着けって! 広い心をもってたまには気を抜くのも大事だぜ?」
必死に両手を振って俺の接近を拒否してくる。別に攻撃するつもりもなかったんだけどな……。
それにさっきは気を抜くとはなんちゃらっていってなかったか?
しかしこいつはいったいどこから飛び降りてきたのか……。
俺は目の前で悶えている奴が飛んでいた頭上をふと見上げると地上から30メートルぐらいさきに飛び出た板みたいなのを見つけた。
男はそこから飛び降りたのか、まだ板は反動の影響でゆっくりと縦揺れしていた。
「まあ確かにあそこから飛び降りたら痛いよな……同情するよ」
俺は再びうずくまっていた男の方に目を向ける。
しかしそこに男はいなかった。
あれ? どこ行った?
俺が疑問を抱くと同時に腹に鈍い痛みが走る。
「俺は魔族と人間の間に生まれたハーフだ。あの高さぐらいどうってことない」
痛みが走った辺りを見ると、男が汗だくながらにやにやしていた。
そして俺の腹には深々と刀が刺さり見事に体を貫通していた。
「さらばだ、油断したおろかな魔族よ」
男は薄ら笑いのまま俺から勢いよく刀を引き抜く。
さすがに貫通しているとそれなりに痛みは感じるな。
俺は体が後ろに倒れていくのと同時に、片足を振り上げ男の顎を蹴りあげた。
「グハ!!」
地面に背中がついた後、腹の辺りをさすると傷はもうふさがっている。
それを確認すると俺は思いっきり勢いをつけて立ち上がった。
「まあでも刀で刺されるのは、銃弾よりも痛くないんだな」
まあ多分体の構造が変わっているってのが大きいんだろうけどな。
元の体ならきっと出血多量とかショックとかでとっくに死んでる。
再三男に目を向けると男はとんでもないスピードで立ち上がった俺が信じられないのか目を見開いていた。
「おいおいいくら魔族でもそれはないだろ、貫通してたんだぞ? お前不死身か?」
「出血多量とか刀で刺されたとかでは死ねないみたいだけど不死身ではないと思う」
「そんな……こんなのがニブルにいるなんて聞いてないぞ……」
絶望を感じたのか男はうつろな目をしてその場に座り込んでしまう。
これなら簡単にいろいろと聞き出せそうだな。
「まだ名を聞いてなかったな、俺はアモンだ」
「ニブル反乱組織リベルアル隊長ソリテール……」
ソリテールと名乗った男はゆっくりと立ち上がると、再び刀を構える。
しかしその目には生気が宿っていないようにも見える。
いくらなんでも一撃で決まらなかったからって落ち込みすぎじゃないか?
「まだ質問は終わっていない、そんなに焦るな。ニブルに反乱するぐらいだからこの国のことは詳しいよな? ニブルってのはどんな国だ?」
「紛うことなきくそ国さ! あんな国さっさと滅びればいい!」
ソリテールはいきなり憤慨しはじめた。
「……悪い、質問のしかたを間違えたな、客観的にみてどんな国だ? 特徴を教えてくれ」
ソリテールは疑うような顔で俺を見つめてくる。
「おまえ、ニブルに雇われてるんだろ? てことはニブルに住んでるんだよな? 何でそんなことを「三秒以内だ」
正直詮索されるのは困る。余計な情報が伝わっても面倒だしな。
こっちが質問していることに素直に答えてもらうに限る。
「い~や、なんかにおうな……禁忌とかも普通に使ってたしな…お前なに」
俺はソリテールの言葉を最後まで聞くことなく、一瞬で彼に接近すると回し蹴りを顔面にくらわせる。
ソリテールはそのまま吹っ飛び壁に激突する。
「カハ……」
「俺を仲間に加えられるとでも思ったか?」
ソリテールはあまりの痛みに返事すらできないのかその場で座り込んでうめいていた。
仲間に勧誘される可能性はあった。ニブルについて詳しくないことを知られてしまえば、言葉巧みに誘導されるかもしれない。
まあ俺はどこかに属するなんて気はさらさらなかったから、勧誘されても無駄だが。
それにしてもこれ以上詮索の意を込めて思考されるのは俺としてもよくない。
「俺ももとは人間だから痛みは嫌ってほどわかるんだ、正直こんなことやりたくないから頼む、教えてくれないか」
「……ニブルヘイムは氷の国。ユグドラは、一年中太陽が出ることがない。別名太陽に嫌われた世界」
ソリテールはこれ以上のダメージは命に関わると感づいたのか、この世界の情報について話し始めた。
「確かにそれくらいは記憶にあるな。それにしても太陽がないのとか、そんなとこでよく暮らせるな」
それに太陽を見たことがないのに、その存在は知っている……。
昔から太陽が出ていなかったというわけでもないのか。
「それでニブルが氷の国っていうのは? ここが寒すぎるとか?」
「ああ寒い、とにかく寒いんだ、火を起こすのも一苦労だよ」
俺は体質上そんなに寒さを感じなかったが、そんな寒い場所なのか。
今思えばみんな厚着だったような気もする。そんなによく見てないからちゃんと覚えてはいないが。
「それにニブルで魔族は生活することができない。ここは人間様の国だ」
そういうソリテールの口調は明らかに嫌味に満ちていた。
まあ私情は今はどうでもいい。欲しいのは情報だ。
「そもそも、それならどうして今回の任務は魔族ばかりで構成できてるんだ?」
「お前、何でそんなことも知らないんだ?」
「いいから答えてくれ、どういうことだ」
「王族……城にすむ人間達は魔族をかくまっている。国に拾われた魔族は立派な隠密兵として育てられるのさ、こうした集団任務に魔族で構成されるってことは、つまりは最終手段ってことだ」
この国の最終兵器は生活することが許されていない魔族だってことか。
「というかお前、そんなに詳しいってことは城のものだったのか?」
正直魔族で構成された理由なんてこいつが知ってるなんて考えもしていなかった。
なんとなく知っていたらいいなくらいで尋ねただけだ。
「そうだな、俺もこの国に拾われた身さ。魔族とのハーフである俺はこの国で生きるのはつらすぎからな。でもあいつらは俺の母親を魔族で力がないからという理由、ただそれだけで殺したんだ」
俺はだまってソリテールの話を聞く。今まで聞いた情報の限り魔族と人間のハーフなんて貴重なんてレベルじゃないだろう。
「それからはいつかこの国に復讐する事ばかり考えていた。それが達成される日を夢見ていた……まさかなにも知らないお前ごときに邪魔されて失敗に終わるとはな」
「ああ、それは悪かったな」
まあ同情しようと思えば目の前の男に同情できる。あくまでもしようと思えばの程度だが。
「ただ俺一人で充分だ。俺が殲滅するといっている手前、リーダのお前を逃がすわけにはいかないんだ。それにお前も俺が逃げろといって逃げるほどの臆病者ではないんだろ?」
「当たり前だ、ここで逃げたら俺の復讐のために命を捨てていった仲間に申し訳がたたない」
「……そう思うなら高みの見物なんかしなきゃよかったのにな、そんなことしてた時点でどこぞの国の王様と同等だな」
ま、この国の最終兵器とかいう闇の部分も知れたし、目の前の男はいつ切りかかってくるかわからないくらい憤っている。
情報収集はこれくらいで終わりかな。
そんなことを考えていると、ソリテールは一瞬で俺との間合いをつめ刀を振り上げた。
まだそんな元気が残っていたとは……。
あれだけダメージを与えたのにいまだここまで俊敏に動けるのはやっぱり魔族の血が混ざっているからだろうか。
しかし、同じ敵から二回攻撃を受けるほど油断はしていない。
体を大きく後ろにのけぞることで刀を避け、直後体を起こし再びソリテールの顔面を殴り飛ばした。
俺も技を使わないと技術の多様性に欠けるなあ。
「おい、なに手加減してるんだ、俺をバカにしてるのか?」
確かに俺は力をかなり手加減した。
それでも大の大人のソリテールが軽く20メートル近く宙に浮き吹っ飛んだのだ。
やっぱり手加減はかなり難しい。
この国のことは何となくだがわかった気がする。目の前の男も普通じゃない人生を送ってきたのだと容易に想像できる。
「情報をくれたことには感謝するよ。感謝をこめてお望み通り痛みなく殺してやるよ」
「あんまり俺をなめるなよ…」
ソリテールは刀を支えに立ち上がるとよろめきながら刀を構え直し俺に突っ込んでくる。
そんなかっこよく突っ込まれたらどっちが悪かわからなくなるな。
まあ俺自身が善になった気もさらさらないのだが。
「よろよろじゃないか」
俺は軽くジャンプして、無防備に近づいてきたソリテールの刀の上に飛び乗ると刀は真っ二つに折れる。
折れた刃先が地面に着くと同時に俺も地面に着地する。
そして間髪入れずに今度は容赦なく彼の顔面を思い切り殴った。
ソリテールは360度顔を何回転もさせながら窓ガラスを突き破ると、塔のてっぺんから落ちていき、目の前から消える。
さすがに首の骨がバキバキに折れているだろうし、生きていたとしてもこんな塔から落下すれば死んでるだろう。
これで生きてたらそれはそれでソリテールはすごかったということだ。障害やらで普通に生きていくことはできないだろうし、問題はないだろう。
「……と思ったけどやっぱりさすがに死んでるよなあ」
俺は地面で形すら残っていない血だまりに手を合わせると、割れた窓から飛び降りようやく城の方面へと足を向けた。
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