6-9 四天王戦という名の茶番・終盤戦
最早新たな情報を得ることに期待をすることもできず、穴の開いた天井を突き抜け上の階に到達する。
『出たな!化け物!』
上階に降り立つとともに聞こえてきたうるさい羽音と甲高い鳴き声のような複数の合わさった声。
俺は確かに化け物だ、しかし目の前でブンブンと羽ばたいている小さな虫のくせに人間の顔を持つこいつらも俺と大差ない化け物だと思う。
『われら最後の四天王!ピクシー族軍団が相手だ!』
100匹以上はいるだろうか、小さなピクシー達はきれいに声を揃えて俺に宣言してきた。
しかし元々の声が甲高いせいか聞き取れたのは奇跡に近い。
それにしてもこれは予想外だったな……。
「もはや、一人とかじゃないんだな」
『ピクシー族はみんなで一人!文句あるか!』
四天王といいつつ五人目がいるとか、実はもう四人目は仲間割れとかで死んでいるとかいろいろ考えたりしたが、まさか100匹まとめてかかってきて一人と言い張るとは……。
俺は無防備にずっと立ち止まっているにもかかわらず、目の前のピクシーは襲ってくる気配がない。
話し合う余地があるのかもしれないとそっと目を向けると、ピクシー達はその場で隊列を組むかのように集まり始めていた。
しかし、今までの声の揃いようとはうってかわって一人一人の主張が強いのかなかなか隊列は完成しそうもない。
「なあちょっと話を聞いてほしいんだが」
しかし俺の声が聞こえていないのかピクシー達は必死に集まっている。
そしてようやく隊列が揃ったようで全員そろって俺をみてにやっと笑った。
『待ったことを後悔しろ!ドラゴンアタック!』
ピクシー達はなんともシンプルな技名を叫ぶと隊列を崩さないように徐々にスピードをあげて突っ込んできた。
「確かに…ドラゴンに見えないこともないけど…無理があるな」
俺は容易にピクシー達が向かってくる軌道を察知して宙に飛び上がった。
「やっぱり期待するだけ無駄だったなぁ……」
もはや最初から過度な期待は持っていなかった。そして対面して再認識する。
こいつらはアホだ。もしかしたらあの少年よりも阿呆かもしれない……。
「はぁ……じゃあ俺もそろそろ始めようか」
こうなったら別の用途でこいつらを有効活用してやろう……。
その発想は半分やけくそに近かった。
俺が思考にひたっている間、勢いのあまり壁にぶつかってわやくちゃしているピクシー達を完全に無視して頭にいくつも浮かんでいる術の中の一つを唱えることにした。
「ロウ・オーダー・サモン」
俺はそれぞれを責めたてているピクシー達の背後の、地面に手を向けると地面によく分からない紋章が三つ浮かび上がった。
「マミー・スケルトン・ワイト……了」
頭の中に浮かんでくる術式を素直に唱える。
地面に向けて広げていた両手を閉じると、三つの紋章がひかりながら縮小され完全に紋章がなくなるときには、地上に大量の包帯まみれのマミー、骨の兵士スケルトン、亡霊ワイトが溢れかえっていた。
ようやく事態をのみこんだピクシー達は突然現れたアンデッド族の大軍に動揺を隠せていなかった。
「どこにこんなに仲間を隠していたんだ!?」
「いや、あいつ今紋章を使っていたぞ!」
「そんなばかな!」
口々に喋ってるのは疑いの言葉。
まだ信じてくれないか……。
それにしても現れた魔族に対して攻撃すら仕掛けないとは呑気な奴らだ。
ついでに俺はもうひとつの技も試すことにした。
「エミ・ネント・サモン」
先程と同じように両手を広げそれを地面に向けると、さっきは黒の紋章だったのに対し今度は先程より一回り大きい白い紋章が浮かび上がった。
「エウリノーム・マリブランケ……了」
両手から細い炎の筋をだし紋章に沿わせる。すると、二つの紋章は一気に燃え上がり炎が消え、2体の巨大な魔族が現れる。
一体は死体を食べその食べたものの力を得るエウリノーム。
もう一体は慈悲なき鬼マリブランケ。
「ま、間違いない……」
「絶滅したはずのエウリノーム族がこんなところにいるってことは……」
「召喚術だ!!こいつ禁忌をおかしたぞ!」
やはり、ピクシー達の反応からしてそんな気はしたのだが今唱えた2つの術、低位召喚術、高位召喚術はどちらもが禁忌だったようだ。
しかし国に反逆した組織に属してる奴でも禁忌術は気にするんだな。
いまいち倫理の基準がわからんな……。
俺は頭をかきながら地上で蠢いているアンデッド族達に向かって簡単に「いけ」と指示する。
すると俺に召喚された大量の魔族達はものの五分足らずでピクシー達を一人残らず殺してしまった。
途中ピクシー達は許しを乞うていたが、1度動きだした魔族は止まることを知らない。
そして、エウリノームが一人残らず既に息絶えたピクシーを平らげるのを魔族達は確認すると、一瞬魔方陣が俺の足元に浮かび上がり、地上に降りていく。
魔族達はその魔方陣に触れると同時に跡形もなく消え去っていった。
「もしかして……」
俺はさっきまで地獄絵図が広がっていた地上に降りると、思考を巡らせる。
まさかこのアモンが知っている術はほとんどが禁忌なのではないか?
使う術使う術今のところほとんど周りから禁忌扱いされている。
それでも過去のアモンは当たり前のように、俺が今まで行使した術を同じように使っている。
禁忌っていう認識がなかった? それかそんなこと気に留めたことすらなかったのか?
いったいどこでこんな術を手に入れたのか、その記憶は何故か頭に浮かばなかった。
「さあ、あとはリーダーだけか……」
いまさっきまでこれだけ大暴れしても最上階にいるであろう敵が、ここに降りてこないのはいかがなものかと俺は思ったがそこはあえて考えないことにする。
権力を持ったやつの思考なんて俺ごときが分かるはずもない。
「今度こそユグドラ……せめてニブルについて色々と聞き出さないとなあ」
俺は最上階へと続く階段をゆっくりと登りはじめる。
俺のなかにあった負けるかもしれないという不安はいつの間にかきれいさっぱりと無くなっていた。
今度こそこの世界の情報を手に入れる……。頭の中にあるのはその事と、戦闘続きの現状に少し辟易としている気持ちだけだった。
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