6-8 四天王戦という名の茶番・中盤戦
目の前の腰を抑えている子供。その仕草は子供とはかけ離れたものだが、俺はあるひとつの特徴、いや逆に言えば何もない特徴に激しく感動を覚える。
「まともな人間……!」
そう呟いた瞬間、男の子は常人から見れば剣を恐るべきスピードで抜刀すると、その場で剣を降り下ろした。
なんだろう、素振りかな?
とか考えていると、直後腕の辺りでスパッと音が聞こえてきた。
一瞬後れて腕を見ると地面に何枚か俺の羽が落ちていた。
「素振りじゃない?」
「僕が小さいからって油断したんでしょ? 僕はこれでも勇者だ。しかも波動も使える! 遠慮せずに手加減せずかかってきてよ」
波動……この子からは色々と聞き出す必要がありそうだ。
ていうか他の奴よりよっぽどまともに見える。
「波動?」
「何? 鳥さんは波動も知らないの? おバカな魔族に教えてあげようか。僕は風の波動が使えるんだ。つまり剣を降ると同時にそこから僕の気が鋭利な風となって飛んでいくわけ。つまり僕はナイトの苦手とする遠距離戦もこの波動によって補えるわけさ」
「へえ。わざわざすまないな。ちなみに……これも波動か?」
俺は片手をあげそこから炎の弾を三発打ち出す。
「炎の波動!? いや、そもそも魔族は基本的に波動を作ることができない、元々の気が弱すぎるからね、だから生まれつきのもの?いや、それにしても炎を打ち出す魔族なんて見たことないな……。魔法だとしても詠唱すらしていないわけだし……」
勇者は頭を抱え俺を見ながらうんうんと唸りはじめる。
気になったことは答えを出さないと気が済まないのか?
「しかしアモンもそんなに有名じゃないんだな」
「……ん?鳥さん、自分のことなのに自分のことわかんないの?」
「自分のことを理解するなんて永遠に無理さ」
「僕は僕だよ? ちゃんと分かってるよ」
「子供にはわからんさ」
しかしこの子はいい情報をくれた。波動は人間しか持つことができない。しかも持つことができるのは、才能を持った者だけ……。
じゃあ俺が詠唱もなしに魔法を使えるのはなぜか? そもそも無意識的に使えるこの炎は波動としてとらえていいのか。
情報は増えたが、自分に対するなぞは増えてしまったな。
まあちょっと脅かしてこの子供には引いてもらおう。
俺は一瞬思考をやめ、勇者との間を一気に詰めようと体をかがめ飛び出す構えをみせた。
しかしそのまま飛び出すことはなく、突如俺の両頬に一瞬の痛みが走る。
その後両ほほから血が噴き出て地面を濡らした。
しかしその傷も一瞬でふさがり、残ったのは地面に飛び散った不自然にすら見える結婚のみだった。
「油断したか?」
まさかこの体で傷を負うことがあるなんて。しかも二回目だ。
考え事にふけりすぎて件を振っているモーションが見えていなかったのか?
しかし初めて傷を負ったが痛みはそれほどでもないな。
衝撃時の一瞬の痛みはあるもののそれも銃弾を食らったときほどじゃないし、正直蚊に刺されたくらいのレベルだ。傷もどういうわけか一瞬でふさがったわけだし。
でもこんな骨みたいな顔でも血はでるんだな。
そんなどうでもいいことを考えている間、目の前の勇者は顔を真っ赤にして俺を睨んでいた。
「まだ、僕を子供扱いするのか……!僕は子供じゃない!勇者だ!!ナイトなんだ!!」
そして勇者は逆上して、その場でむちゃくちゃに剣を振り回しはじめた。
しかし、剣から繰り出される波動は一つも俺に当たることはなく、勇者はただただ体力を消耗しているだけだった。
俺が一つ一つの波動をよけているわけではない。そもそも狙いがでたらめすぎて俺にあたる気配がないのだ。
「命中率が低いのか、冷静さを欠いているだけか……。」
もしかしたらさっきの頬にかすった攻撃も本当は一撃必殺で俺の体を真っ二つにしたかったのかもしれない。
まあ波動がうてて優秀なのかもしれないが、冷静さがないあたりがまだまだ子供だな。
俺は迫ってくる波動に当たらないと確信しながら、ゆっくりと歩き勇者に近づく。
そして勇者の目の前に到達するとでたらめに振り回している剣を片手で器用に剣を掴んだ。
「一個聞いてもいいか?」
剣を必死に俺から離そうとしている勇者は顔を真っ赤にして半泣き状態だ。
「離せよおお!!」
「話を聞いてくれ。君はこの世界の本当の姿を知ってしまったからこの反乱組織に入ったのか?」
「本当の姿? そんなものどうでもいい! 僕はみんなにこの力を認めてもらいたかっただけだ! 体が小さいからってみんな僕をバカにしやがって! あいつらよりぼくの方がよっぽど強い!」
「そうか……」
これ以上話しても無駄かなあ。目の前のお子様はもう俺の話を聞くつもりはないらしい。
外見は完全に子供だし、中身も子供だよなあ。
「大人になりたかったら、もっと冷静さを磨くんだな。技だけじゃ大人になんてなれないぞ」
「何を……!?」
いまだに子供はその剣を引こうとはしない。もはや顔は涙でぐしゃぐしゃだ。
俺はずっと握っていた剣の刃に少しだけ力を込める。
すると刃は熱で溶けぐにゃぐにゃになり、使い物になる状態ではなくなった。
溶けた刃が地面に滴り落ちる様子を子供は口を開けてあっけにとられた様子で眺めている。
さっきまでの元気はどうやらどっかにいってしまったようだ。
「真っ二つに折るつもりだったんだけどな……」
全くおれの体の原理はどうなっているのやら……。
「お前はいったい……」
「さっきまでの言葉遣いの方がまだ大人っぽいぞ。目上に向かってお前なんていっちゃ殺されるぞ」
俺はそういいながらいまだ呆けて俺を見上げている無邪気な少年の頭にポンポンと手をおく。
その直後目の前の子どもは全身の糸が切れたようにその場に倒れた。
頭をたたいた瞬間、激しく頭を揺らしたのだから脳震盪を起こしたのだろう。倒れて当然だ。
「さすがに子供を殺すのは気が引けるなぁ……」
目の前に倒れた少年を見つめながら頭をかく。
さすがに一対一の状況で人間の子供を殺すことができなかった。
アモンとしては何とも思わないのだろうが、羅生としてはどうしても気が引けてしまう。
「さて、数通りなら次がラストの四天王か…」
俺は穴の開いた天井を見上げる。もう正々堂々登るのもめんどくさい。
俺は翼を広げると、上階に向かって飛び上がった。
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