6-7 四天王決戦という名の茶番・前半戦

「かかったな!俺が四天王の一人!ドワーフ族の……あれ?ひとり?ほかのやつらはどうした!」

「え、ちょっ! 話を聞いてくれないか!」

「うるせえくらえ!!」

「ああもう!」

 

 扉を開けた瞬間に攻撃を仕掛けてきた低身長すぎるおじさん。

 会話を試みるも失敗。話を一切聞こうとせずに斧を振りかぶってきたおっさに向かって炎の弾を発射。おっさん丸焦げで倒れ伏す。


 扉を開けてわずか10秒足らずで起こってしまった出来事だ。

 まあ今のはしょうがないかな……。やらなきゃこっちが痛い思いをしていたわけだし。

 俺はとりあえず扉を閉めて、目の前で倒れてびくとも動かないおっさんに両手を合わせた。


「さてと、どこからいくかな……」


 というかこのおっさん四天王とか言っていたか?

 ということは……。


「あと三人も敵はいるのか……」


 四天王残機三人とリーダーが一人。

 テンプレでいうと四天王とか言っておきながら幻の五人目とか登場するかもしれない……。

 数はできるだけ少なくていいんだけどな。できれば情報のかたまりみたいなやつ一人で十分だ。


 俺はとりあえず目の前の階段を登り最上階を目指すことにした。

 飛んで向かってもよかったが、情報を持っているかもしれないやつが後三人もいるなら、一人ずつ確認した方が良い。


そして階段を登りはじめてすぐのところで壁にたてかけられた看板を発見する。


《この階段を登りきると待ち構えるは四天王最速のバフォメット族のサリーマ!かかってこい!》


 いかにも手書きの字面で懇切丁寧に書いてあった。


「これは……慈悲か? いや違うな、多分バカだ」


 しかし、この字はなんとかならないのか。

 汚くてほとんどなんて書いてあるのか分からない。

 読めた自分を誉めてあげたいほどだ。


 この看板から読み取れた情報は二つ。

 一つはもちろん階段を上った先には四天王のひとりがいるであろうということ。

 もう一つはこの世界の字も問題なく読めるということだ。

 こんなに汚い字を読むことができたんだ。たいていの文字はおそらく読めるに違いない。


 俺は看板から得た情報に満足しながら階段を登りきる。

 すると目の前にはばか正直に本当に羊頭が座っていた。

 しかも、俺がたどりつくのに待ちくたびれたのかこくりこくりと転寝をしている始末だった。


「不意打ちとかでもなくあの看板でだましていたわけでもないのか……とりあえず叩き起こすか」


 とりあえず羊顔の目の前まで歩いて向かうと舟をこいでいるその頭に向かって力加減をしてチョップをかます。


「いってえ!!熱い!!!」


 飛び起きた魔族は頭を抑えながら急に地面を転げまわる。

 しかし熱い? 俺は純粋なチョップをしただけで炎をまとわせたわけではない。

 やっぱり体に熱が通っているから自分の皮膚とか熱いのだろうか。


「あ、ごめん、夢の中で鍋を食べる寸前の状態で叩かれたから思わず熱いっていっちゃった」


 座り直した魔族は気を取り直したのかケロッとした様子でこちらを見てくる。


「……殺すぞ」


 俺は思わず後先考えることなく握りこぶしを作ると、拳に炎がまとい足にも力をいれて、両足に炎をまとわせる。


「読まなかったのかい?あの看板を。僕は四天王のなかで最速のバフォメット族だよ?」


 そういえばそんなことを言ってたな。俺は得意気に話してくる羊顔をみて冷静になる。そうだ。ぼこぼこにする前に話をしないとな。


「ちょっと聞きたいことがあるんだが」


 しかし、羊顔の魔族は俺の話を聞くことなく、急に俺の周りを回るようにサイドステップをはじめ、高笑いしていた。

 

「どうだい!早すぎて僕の姿が見えないだろう!」

「いや話を聞けって……」


 たぶんの俺以外の者が見たら本当に高速で姿が見えなかったのかもしれない。

 しかし俺の目には、普通に汗だくでサイドステップをしている羊顔しか見えなかった。無駄に俺の周りを動いている姿もしっかりと確認できてしまう。

 凄まじく遅い。恐らく部活で鍛えているもののサイドステップの方が早いかもしれない。


「話を聞いてくれるつもりはないのか」

「敵と話すことなどない!」

「はあ……そうか」


 期待して損した。いやもともと期待なんてしてなかったけども。

 それでも堂々と待ち構えるくらいだったのだから、ちょっとは強そうだったり、頭が冴えていてもよかったんじゃないかと思う。

 まああんな看板を作っている時点で頭は悪いか……。


 もうこいつに用はないかな……。

 そう判断した俺は思いきりジャンプして天井に足をつける。そのまま両手を突き出す。

 そして思い切り天井をけって加速するといまだにさっきまで俺がいた周りをサイドステップを続けている羊顔に向かって、垂直落下した。


 羊顔はまだ気づいていない。

 今の一連の俺の動きに一秒もたっていない。

 要するに羊顔の動体視力より俺の動きの早さの方が上回っているのだ。


 俺が羊頭に肉薄した時、ようやく彼の頭上に俺が移動していることに気がつく。

 しかし時すでに遅く、俺は間抜けな顔をして見上げてきている羊顔に突き出した拳が当たる寸前に、両刃を出しそのまま地面に向かって突き進む。


 俺は全身に羊顔の返り血を浴びながら、床に到達し刃が勢いよく突き刺さる。


 刃が地面にきれいに突き刺さり逆立ちの状態になった不格好な俺の姿の脇には体が半分ずつになっている羊顔が横たわっていた。

 まさか体を突き抜けるほど威力が出るとは思わなかった。

 ちょっと彼に対しての殺意が高すぎたのかもしれない。

 意外と短期になってるのか?


「やっぱりまだ力の制御が難しいな……」


 その状態で考えにふけりそうになったとき、ふいに天井からパラパラっと音がした。

 俺は即座に両刃を納めて、浮いた体を半回転させて、きちんと両足で地面に着地する。

 と、同時に天井が完全に崩壊し、天井版と一緒に上の階にあったのであろうものがすべて落ちてきた。


 俺はとっさに背中の翼で全身を覆い、落下してくるものを体は守ったが、辺り全体が埃で覆われてしまい、周りが一切見えなくなってしまった。


「いててて、いったいなにしたら床が抜けるのさ……僕そんなに重いかな」


 埃が充満する中やけに若い声が耳に飛び込んでくる。

 徐々に部屋全体を覆っていた埃が晴れると同時に体を防御していた翼を元に戻す。

 すると俺のすぐ目の前には尻餅をついた一人の男の子が、涙目で俺の方を見てきていた。


「まだ痛いけど自己紹介しとくね、僕は勇者ナイト種のナイツだ、つまり四天王最強の男さ」


 ナイツと名乗った男の子はのっそりとたちあがると涙目のまま胸を張る。

 しかしその直後に再び自分のお尻を抑えてうめいていた。



 俺が気になったのはたった一つ。

 目の前でうめいている男の子の見た目はどうみても10歳前後の大人とは言えない小さな子供だった。

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