6-6 決戦前のお気楽思考

 数がだいぶ少なくなってしまった味方とともにでかく構えている塔に向かって走りながら、考える。

 この組織の隊長、要するに今回の任務の最終目標は手下が必死に下で頑張ってるのに、塔の上でふんぞり返っているのか。

 そう考えると少し気分も悪くなって、殺してやろうかという気分にもなってくる。


 この体になってから生命の価値観がだいぶ薄くなってしまっている気がする。

 魔族はとんでも種族だから仕方ないとしても、さっき人間を殺してもほとんど何も感じることはなかった。


 さっきまでいらつきすぎて、いっそのこと思い付く限りの技で塔をぶっ壊してやろうかとも考えていたくらいだし……。


 でもニブル国に反乱するくらいの組織だ。少なくとも都市の内情に詳しいに違いない。じゃないと反乱なんて考えないだろうし。

 会話にならない限り殺すしかないのだろうが……技を行使して味方に禁忌だのなんだのといわれるのもめんどくさい。

 それに話を聞くにしても周りの味方が真っ先に攻撃を仕掛けてそれどころじゃないかもしれない……。


 ……そうだ! いいことを思いついたぞ。

 ひらめいたと同時に俺は駆けていた足を止める。

 それと同時に周りの仲間も何事かと足を止めてくれた。

 よし話を聞いてくれる体制は整った。 


「一つ提案がある。お前達は先に国に帰ってくれないか?」

「え?」

「我らも共に!」

「いや……えー……そうだ、仲間が敵と必死に戦っているというのに、それを高みの見物でほくそえんでいるであろうクソ野郎など俺一人で充分だ」


 俺の言葉に周りから感嘆の声が漏れる。

 ああ、これ前のアモンだったら絶対に言わないことだろうなあ。

 大丈夫かな。


「だからお前たちは先に戻ってここまでの報告とこれからの報告をしてくれないか」

「これからの報告?」

「猛将アモンが反乱分子を殲滅したと事前に報告しろ。間違いは起きない」

「…………」


 一瞬その場に広がる静寂。

 しまった、大口をたたきすぎたか? アモンならこれくらいやっても問題ないと思ったのだが……。


「さすがアモン殿!ほれなおしました!」

「では我々は先に国に戻り王に今回の件を報告したいと思います!」

「ご武運を願います!」


 魔族達は俺に向かってそろって一礼すると帰路に向かって猛スピードで走っていく。

 なんだ、やりすぎってわけではなかったのか。

 それに惚れ直すってなんだ。男に惚れられたのか? それはそれで困るし、惚れ直されるって余計に困るんだが……。


 まあ何はともあれこれで存分に周りを気にせず技も使えるし、話も聞ける。

 問題は向こうがまともに話を聞いてくれるかどうかだが……。


 それに強大な力を持っていることは把握できたが、実際世界的に見てこの強さがどこまで通用するのか確かめきれていないところはある。

 正直組織のリーダーとやらに勝てるかどうかの不安は多少ある。

 それでも万が一のことが起きない限りは負けることはないとふんでいる。

 手下が手下だしなあ……。リーダーも大した強さじゃないんだろうか。


 所詮俺は一度死んでいる存在だ。

 死ぬ直前の記憶ももちろん残っているし、あの感覚は忘れたくても忘れようがない。あれに比べれば今はましだ。ましすぎるくらいだ。


 あまりにも自分の楽観的な思考に思わずにやっと口元が緩んでしまう。

 そんな思考をめぐらしているといつの間にか塔の前にたどり着いていた。


「しかし……本当にでかいな」


 俺は目の前にそびえ立つ塔を見上げて思わずため息を深くつく。

 これバカ正直に下から上に登る必要あるのか?


「だめだ、このため息も我慢しないとそこら中で炎撒き散らすことになるな」


 何とかこの余りある炎を外に出さずに制御しなければ普通の生活すらできなくなってしまう。


もし本当に体のなかに炎を溜めているのだとすれば、この体の構造はいったいどうなってるんだ。炎の熱さは全く感じないと同時に外気の寒さもほとんど感じない。

 俺上半身ほとんど裸なのにな……。

 ま、分からないことをうだうだ考えても仕方がない。


「……いくか」


 俺は神々しくすら見える堂々と構えている重々しい扉をゆっくりと開けた。

 さあ今度はどんなとんでも野郎が飛び出してくるのかね……。

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