6-5 戦闘開始

 周りの魔族に促されるまま、任務再開となった。

 任務再開といっても荒野を駆けまわるだけ。どこか目的地がありそうだがどこに向かっているかは全くわからない。

 俺の頭の中の情報量が少ないからなあ……。

 アモンって頭悪かったのかもなあ……。


 のんきにそんなことを考えているが、一応敵と交戦中だ。

 荒野を走りながらも正面、横、後ろから魔族やら人間やらが同時に襲ってきている。

 最初こそはビビりさえしたが、今はもうなんというか……作業なんだよな。

 思考をめぐらせながら、またワンパターンに全方位から突っ込んできた敵四体を自分の体の一部っぽい腕から出せる刃を体を一回転させて振るう。

 それだけで突っ込んできた敵の上半身と下半身はみんな等しく真っ二つになる。

 開店した直後足を止めて、目の前の惨劇を見る。まあ惨劇って言っても俺がやらかしたことではあるのだが……。

 

 戦ってみてわかったが……このアモンの体はかなり強い。強すぎるくらいだ。


「なにボーッとしてやがる!!」


 魔族には牛の顔が多いのだろうか。

 牛顔の魔族が怒号をあげながら太刀をむやみやたらに振り回しながら、突っ立っている俺の方に突っ込んでくる。


「はぁ……」


 アモンには標準装備の両刃のほかにもうひとつ特徴があった。

 それは炎を自在に操れるということ。

 今まででまだ実行には移したことはないからあくまでも記憶の中で確認したことだ。

 でもため息をつくだけで口から小さな炎がちらつく時点で、あとはご察し……。


「エンチャント」


 俺はふと頭に浮かんだ技を大きく太刀を振りかぶっている牛頭に向かって行使する。

 その瞬間持っていた両刃に炎がまとい、こちらも刃を振るった勢いそのまま牛顔にそのまま突き刺す。

 牛顔は一瞬呆けた顔をのぞかせたがそれも一瞬。

 直後牛顔の穴という穴から炎が吹き出しそのまま破裂した。


「こんな力要らなかったな……」


 理不尽な暴力により訪れた死から、理不尽な暴力を宿した体を持ってして復活。

 なぜこんなところにアモンとして来てしまったのか……。

 

 そういえば神様ぽいやつに俺は一つだけ望みを言った気がする。

 あのときに人間以外で生きてみたいとかいってしまったからだろうか。


 でも、それは犬とかトンビとかになりたいって意味であって、こんな突拍子もないところでこんなとんでもない力を持つ魔族なんかになりたかったわけではない。


「今さらごちゃごちゃいってもしょうがないか」


 起こってしまったことはしょうがないし、過去に戻ることはどうやったってできない。

 俺の中に残った印象はやっぱり神様はくそだったということだけ。

 まあ俺ごときが望みすぎたのかもしれないな。


「後ろががら空きだぜ?」

「お前は前ががら空きだ」


 俺は後ろから剣を振りかぶっている敵に向かって振り向くことなく、片方の刃で腹を突き刺す。

 その直後背後から凄まじい熱気が吹き付けてくる。

 振り返ると顔の原形をとどめていない魔族が地面に転がっていた。


 正直こいつらは邪魔だ。今は情報の整理を第一優先で行いたいし、戦闘なんてこっちから願い下げだ。

 とりあえずこの世界の情報を整理しきるまでは、余計なことはしゃべらない方が言いかもしれない。

 ペチャクチャとしゃべっていたら誰かに俺が本物のアモンでないことがばれてしまう可能性がある。


「アモン殿!」


 おそらく味方であろう魔族が叫んだ方に視線を向けると、そこでは一体の魔族に対して大量の人間と魔族が囲みこんでいた。

 しかし予想味方の魔族が持つ斧にもべっとりと血がこびりついている。

 因果応報だと思うけどな……。そうもいってられないか。


 俺は襲われている魔族を一瞥すると、思いきりジャンプする。そしてそのまま翼を使い空中を移動すると、群衆の頭上にたどり着く。

 そういえばちゃんと空を飛んだのは初めてだな。意外と感動は薄い。

 この状況下で楽しさを見出せというのが無理なことなのかもしれない。


「クリエイト」


 ただ一言そうつぶやき、刃を収めた両手を真下に向ける。

 それだけで両手から大量の炎が分収支、それは龍や馬、得体のしれない何かの形をなしながら、それぞれが意志を持っているかのように炎は敵のなかに突っ込んでいった。


 俺が地面に着地したときには敵味方関係なく生きているものは一人もいなかった。

 


「あ、アモン殿……今の術は禁忌では?」


 助けを求めてきた魔族とは別の魔族が話しかけてくる。

 

「…………」


 てかこいつ今なんて言った? 今の技が禁忌?

 なに、使っちゃいけない技とかあるわけ?

 記憶を頼りにすればアモンはこの技バンバン使ってたみたいだけど……。


「い、いえ!私はなにも見ていません!」


 一人で思考をめぐらしていると目の前の魔族は冷や汗を流しながら首を振り、俺から離れていった。

 いや俺別に何も言ってないけど……。

 しかしこの記憶は本当に信用ならない。一般常識ってものが欠けている。


「脳筋かよ……」


 技をむやみやたらに行使するのも控えよう……。

 頭を押さえたくなる気持ちを必死にこらえる。


 帰ろう。もう十分だろう。殲滅も殲滅、さっきまでひっきりなしに襲ってきていた敵が今はうんともすんとも言わない。

 それも当然、全員息をしていないからな。

 俺はため息を隠すことなく吐き出すと、走ってきた道を戻ろうと歩きはじめる。


「アモン殿!」

 

 俺の心中なんて露とも知らない魔族が後ろから声をかけてくる。

 はあ……嫌な予感しかしない。

 心底振り向きたくなかったが、声をかけられてしまった以上しょうがない。

 俺はゆっくりと声がした方に振り向くと、魔族は不思議そうな顔で俺が行こうとしていた道とは反対方向を指差していた。


「……何?」

「ま、まだこの組織のリーダーを倒していませんが?」

「……分かっている」


 リーダーとかもう関係ないから全員まとめて突っ込んで来いよ。

 俺は一刻も早くこの場所から離れたくて仕方がなかった。

 俺はこんな戦争まがいなことがしたいわけじゃない。


 そんなことをいくら頭の中でわめいたってもうあきらめるしかないため、俺は魔族が指さした方向を冷めた目で見つめる。

 そこにはどこぞのRPGよろしく仰々しく佇んでいる塔があった。

 ……魔王でも倒しに行くのか、俺は。

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