第7話 可愛いお前が大好きだよ


「へえ、いいねえ」

「あ、エッチ。何をするのよ」


その夜、遅く帰ってきた夫がレギンス姿の由香里のお尻に触れてきた。


「へへへ、お前も捨てたもんじゃないな」

「子供が聞いてますよ」

「とっくに寝てるよ」


スポーツ・ジムから帰ってきた由香里は着替えもせず、腑抜けになっていた。


「ひょっとしてイケメン君に振られたか?」


ビールを手にした夫は笑っていた。


「ど、どうして?」

「ははは、明に口止めしたって無駄だよ。あいつ、正直だから、風呂で全部喋ったぞ」

「まったく…」

「へへ、いい女だね」

「からかわないでよ」

「からかっていないよ。惚れ直したんだよ」

「え?」

「『受験の女神様』なんて僕は嫌だね。いつも口を尖らせている、一本気で、怒りんぼの由香里が僕は好きだ」


もう15年以上も前、付き合い始めた頃、「どうしてそれじゃダメなのよ!」なんていつも怒っていた由香里を、「そんなことを言ったってしょうがないだろう」と宥めすかすのが夫の役目だった。


「あなた」


「いいなあ、そのレギンス」

「明が選んだのよ」

「そうか。あいつも見る目があるな、ははは。どうだ久し振りに一緒に風呂に入るか?」

「いやん、恥かしい」


夫に抱き寄せられた由香里はそう言いながらも腕の中で甘えていた。


チュッ、チュッチュッ……


「可愛いなあ、お前」

「ふふ、こんなババアでも?」

「ああ、大好きだ。ほれ」


チュッ、チュッチュッ……


「あーん、いやーん」


今夜のお風呂はとても長くなりそうだ。


                                (了)

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恋するババア 椿童子 @tubakidouji

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