第6話 恋いは儚い


ドレッシングルームで昨晩届いた淡いピンクのトップスに濃紺のパンツ付きレギンスに着替え終えた由香里は姿見の前に立っていた。


(ふふ、可愛い。おっぱいだってカッコよく見えるわ。

 飲みに行こうよ、なんて誘われたら、くくっ……

 まさか、そんな訳ないけどね……)


そして、自販機でミネラルウォーターを2本買った。


  これ

  え、僕に?

  はい、水分補給しないとね


ふふっと微笑んだ由香里は少女のように舞い上がっていた。時計を見ると、約束した時間まで、あと10分!はやる気持ちを抑えつつ、ロビーに降りていくと、一之瀬君が待っていた。


「笠間せんせ、こんにちは」

「はーい、こんにちは」

「へえ、カッコいいなあ……ジムではやっぱりこういうのを着るんだ」


彼は由香里のレギンス姿を褒めてくれる。彼はジャージ姿だけど、それすら由香里には素敵なフィットネスウェアに見える。


「はい、ミネラルウォーター」

「さすがですね」


予想以上の展開に「ヤッター」と叫びたくなったその時、背中の方から「こんにちは」と元気なハキハキボイスが聞こえてきた。


由香里にトイレで睨まれた教務室の職員の一人、茜(あかね)ちゃんだ。


「笠間先生がジムに通っているって謙ちゃんから聞いたので、私もついて来ちゃいました」

「茜は笠間せんせに憧れているんだよな」

「はーい!」


二人はニコニコ笑いながら手を繋いでいた。


(なに、これ、謙ちゃん、茜? 酷くない……)


由香里は頭が真っ白になっていくのがはっきり分った。

それは、当たり前と言えば当たり前だが、由香里の恋は儚く終わってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る