ちるはな

まぐ

第1話

 だるい毎日だ。学校は遠くて、気温は高くて、湿度まで高い。だいたい、夏休みの補修なんか誰が真面目に行くんだよ。もう夏休みなんだよ!?学校なんか行きたいわけないだろ。そう思って足を速め、暑さから逃げるようにブロック塀の角を曲がろうとしたとき。

「おはよ」

彼女の、声がした。柔らかくて温かい声。「おはよう」ときちんと発音はしないけど、それでも誠実さが伝わるような丸みを帯びた声。

「あ、おはよう…」

低い声でかえす。

「どしたのー?髪の毛ぼさぼさだよ!」

いや、どしたのー?じゃないよ。補修が嫌じゃないのか!

「髪は…学校で直すよ」

もうどしたのー?には触れないでおこう。

「せっかく綺麗な髪なんだからちゃんとしなねー」

「…うん」

みつばちゃんの方が綺麗じゃないか。色素が薄くて、先にいくほどぱさぱさして、細くなって、やわらかくなる髪。前髪がちょっと内巻きなのは、家でこてあてたんだろうな。いいな、可愛い子に生まれたかった。

「あ、がっこう!」

もう着くよ、と言いたげだ。こっちは着きたくないのに。


…その「着きたくない」が、補修が嫌だからなのか、もっとみつばちゃんと一緒にいたかったからなのか、この時の私はまだ知らない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ちるはな まぐ @nenesama

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る