第7話・・・プロポーズ⑵・・・

「なんで、鼻の下伸ばしてんの?」

雪との初キスを思い出していると、今の雪に現実に戻された。

「うそ。伸びてた?」

「うん。なんか、エッチなこと思い出してたんでしょ。」

さすが。3年も付き合ってるだけある。

「うっ。当たり。雪との初キス。」

「もぉ、なんでタクシーここでそういう事言うかな。」

「いやぁ、お二人さん、なまらすごくラブラブですね。」

さっきまで、ニコニコ、話を聞いていた運転手さんが、北海道訛りで言う。恥ずかしくて黙ってしまった。

「・・・・。」「・・・・。」

 何分経っただろうか。沈黙の中、俺らはよく頑張ったと思う。

「着きましたよ。」

やっと、着いた。気まずすぎて、そう思ってしまった。

「750円です。」

「お願いします。」

そう言って俺は、1000円を出した。

「250円のお返しです。ありがとうございました。」

俺はお金を財布に入れ、

「ありがとうございました。」

と、言いながら外に出た。

「ありがとうございました。」

雪も後に続く。2人でトランクから荷物を降ろした。ホテルのロビーに入る。

「悠佑、今何時?」

「えっと、4時。」

16時と言っても、まだ青空が広がっている。

「悠佑、何する?」

「早めに、ご飯食べよう。」

「おぉ、いいね。」

「雪、食べるの好きだもんね。」

言ってから、気づいた。俺の言葉を聞いて鬼の仮面を被った雪がいることに。

「・・・一言余計。」

そう言って、俺にデコピンした。しかし、雪は、性格上強くできない。だから、全く痛くなかった。


 2時間ほど、俺らは食事をした。この後、俺は、夕日をバックに、プロポーズする。あぁ、腹が痛くなってきた。場所は、噴水公園。噴水のある公園だから噴水公園。誰が付けたんだろ。

「俺、トイレ行くわ。先帰っといて。6:30噴水公園、集合ね。」

「OK。じゃあ、また後でね。」

「うん。おめかししてこいよ。」

「はーい。」

俺は、個室に入った。そして、スーツに着替えた。個室から出た後は、歯磨き、匂いチェック、笑顔練習、予行練習、ヘアセッティング、指輪確認。いくらの人に変な目で見られたか。予定時刻まで後15分。ここから、公園まで2〜3分らしいが、早めに出ることにした。

 歩きながら俺はブツブツ呟く。

「俺は、雪を一生守りたい。俺と、結婚してください。」

呟くだけでも恥ずかしい。果たして、成功するのだろうか。年配の夫婦が横を通る。

「お母さん。今度、一緒に買い物に行こうか。」

「そやねー行こうか。」

その夫婦に俺と雪を当てはめる。

「お父さん、おとうさん。見て見て。わたあめみたいな雲。おいしそう。」

「そうだねぇ。」

だめだ。低脳な会話しか浮かばない。でも、顔がシワシワになっても、ずっと一緒にいたい。

 公園に入ると、噴水が見えた。その前に立つ。そして、雪を待つ。ちょうど、空が、赤く染まり始めている。10分後には、真っ赤に染まっているだろう。じっとしていると、キョロキョロしてしまう。だから、俺は、空を眺めることにした。

 ただ美しい、空。広い空。そんな、空みたいな心を持ちたい。俺は、不意にも、そう思ってしまった。

「悠佑!」

顔をあげると、白いワンピース姿の雪が走ってこちらに向かってきている。

「えぇ、スーツ?もっとちゃんとしてこればよかった。言ってくれれば、ちゃんとしてきたのに。」

思わず、俺は、結婚式の姿を思い浮かべてしまった。

「雪、そこに立って。」

俺は、自分の前を指差した。

「何なになになに?どうしたの?」

そう言いながらも、俺の前に立った。空を見た。案の定、真っ赤に染まっている。

「えっと、一回しか言わないからね。」

雪は無言で頷く。

「俺は、雪を、一生守りたい。」

俺は、雪の前で跪いた。

「えっ?何なになになに。」

「俺と・・・・結婚してください。」

そう言って、俺は指輪の箱を開けた。雪は、信じられないという顔をしている。俺は立ち上がると、指輪を、透き通るような左薬指にはめた。

「ありがとう。わぁ。綺麗な指輪。」

雪は、空に手をかざしている。そして、我に返り、

「ふかつか者ですが、よろしくお願いします。」

と挨拶した。俺は、愛しい彼女をそっと抱きしめた。

「ありがとう。奥さん。」

俺は、そう慣れない言葉を呟いた。

 夕日の茜色が俺らを包む。


 慣れない言葉。高鳴る心臓。いつか、あの老夫婦みたいになれるのかな。

 子供は2人欲しいし、結婚式は早めにしたい。やりたいことがありすぎる。あぁ、これからが楽しみだ。全ては、君のおかげさ。

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ココロクスグル 房成 あやめ @fusanariayame

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