第10話 私とお祖母ちゃんの夢です!



「ごめんなさい! その申し出はお受け出来ません!」



 そして、大きく頭を下げます。


 一拍を置いて。



『…………ええ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!?』



 会場中からそんな声が聞こえてきました。

 ざわざわと騒がしくなる会場。王様から静かにするようお声が掛かりました。


『理由を聞かせていただいてよろしいかな?』


 そう尋ねてくださった王様に、私は答えました。


「はい。私の夢は、この世界の多くの人にドールをお届けすること。ドールと共に生きる喜びを感じてもらいたいのです。専属のマイスターになってしまえば、それが出来ません。だから……大変申し訳ありません。どうか王様の申し出をお受け出来ないこと、お許しください」

『それが貴女の夢……ですか?』

「はい! 王様の専属マイスターになれるだなんて、とても光栄なことです。ありがたいことです。けれど、私はお祖母ちゃんとの夢を叶えたい。私にとって『ニナ』が特別なように、皆さんにとっての特別なドールを、心を込めて作っていきたいのです!」


 私は、ハッキリと自分の気持ちを伝えました。

 ですが、これは失礼なことです。ありえないことです。王様の申し出を断るなんて、国を追い出されてしまっても仕方ありません。私はそれも覚悟していました。


 すると王様は――



『…………ぶわっはっはっはっは!』



 盛大に、お笑いになりました。


 私も、きっと皆さんも目が丸くなっていたことでしょう。


 王様は言います。


『いやいや申し訳ない、ですが想像していたとおりでしたもので』

「え、え? 想像していたとおり……ですか?」

『ええ。かつて先代の王――私の父が、貴女の祖母ユーリシア・パルルミッタ様に同じことを言われたそうです。ですからこうなるやもと思っておりました』

「え? お、お祖母ちゃんが?」

『貴女は間違いなく伝説の錬金術師の孫娘。いやはや、断られたというのに清々しい気持ちです。はっはっはっは!』

「わわわっ、そ、それは大変申し訳ありませんでした!」


 慌てて頭を下げる私。まさかお祖母ちゃんも同じことをしたなんて知りませんでした! なんて不敬な一家なのでしょう! 本当に申し訳ありません!


 すると王様は朗らかに笑います。


『いやいや、良いのですよ。その代わりといってはなんですが、もう一つ、どうかお願いを聞いてはもらえませぬか?』

「は、はい! 私に出来ることでしたら!」


 すぐにそう答える私。

 王様は言いました。


『貴女が将来立派な『魔導人形技師』となったとき、工房に大勢やってくるであろう貴女の客の一人として、私も混ぜていただけませんかな?』

「……え?」

『一人の客として、改めてお願いに上がることにしましょう。これならどうですか』


 王様はニッコリと笑いかけます。


 私は、すぐに答えました。


「――は、はいっ! 喜んでお受け致します!」


 王様が手を叩き、会場の皆さんが拍手をしてくださいました。エリーさんは、後ろでべそを掻きながら「よかったですわぁ~」と拍手をしてくれています。


 ニナが隣で王様の方を指差しながらつぶやきました。


『あの人、エラそうでキライ』

「わぁ~!? だ、ダメだよニナ~!」


 慌ててニナの口を塞ぎます。


 こうして私――『ユフィール・パルルミッタ』の人生は、このたった一日で大きく変化することになったのです。

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うちの娘が一番強くて可愛いの!~魔導人形技師ユフィールの愛情溢るる日常~ 灯色ひろ @hiro_hiiro

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