第9話 決着と驚きのお声がけです!
そんなボーマンさんに、ニナはポイッと『魔導核』を放り投げました。ボーマンさんはギョッとしてから慌てて両手でキャッチします。
ニナが言います。
『あの子の身体はとっくに限界。あなたが無茶させたせいで、素体は一から作り直すしかないけど、これがあれば元通りになる』
「な、な、なっ……」
『またユフィを泣かせたら、そのときは許さないから』
それだけ言って、ニナは私の元へ戻ってきてくれます。
「ニナ……」
『ん』
ニナはポーカーフェイスでじっと私を見上げていました。そして、何度か『ん、んっ』と物言いたげな瞳をします。
ひょっとすると……褒めてほしいのでしょうか?
私はニナの頭を撫でながら言いました。
「そっか……ニナはあの子を助けてくれたんだよね。ありがとう、ニナ!」
そのまま思いきり『ニナ』を抱きしめます。ニナはやはり無表情でされるがままになっていました。そして気付きます。ニナの身体は人と同じように温かくなっていて、本当に、本物の人間が生きているかのようです。ほ、本当はもっと感情豊かな子になる予定でしたけれど、これはこれで可愛らしいですよね!
そこで、審判の方がバッと手を挙げました。
『しょ、勝負アリ! エキシビジョンマッチの勝者は『ニナ』! 『ユフィール・パルルミッタ』のドール、『ニナ』です!』
途端に、身体が震えるほどの大歓声が上がりました。
会場を見回すと、皆さんが私とニナを見て声を掛けてくれています。
「すげー!」「なんだよあのドール!」「ボーマンに勝ちやがった!」「すごいすごい!」「何あの子! あんなドール初めて見た!」「魔術っぽいの使ったぞ!?」「かっこよかったー!」「『ニナ』ちゃん可愛い!」「俺にもドール作ってくれ!」
私は呆然とそんな声を聞きながら、ニナがあのボーマンさんのドールに勝ったのだとわかって、とても嬉しくなりました。勝ったことが嬉しいのではありません。ニナを、皆さんに認めてもらえたような気がしたからです。
そこで、突然後ろから誰かに抱きつかれました。
「きゃっ!? あ、エ、エリーさん?」
「も~~~っ! やりましたわねユフィールさん! 一時はどうなることかと心配してしまいましたけれど、まったく見事な勝利でしたわ! やっぱりニナさんは動けるんじゃありませんか!」
「あ、ありがとうございますエリーさんっ。ニナが突然動いてくれて、私を守ってくれたんです」
「ドールがオーナーを守るのは当然ですわ! 何よりニナさんはあなたが生み出した子なのですから、親を守るのは当たり前のことです! きっとユフィールさんを守るために起動したに違いありません。ニナさん、よくやりましたわね!」
ニナの頭を撫でてくれるエリーさん。
しかし、ニナは無表情にその手を払い、言いました。
『ユフィに馴れ馴れしく近づかないで』
「「えっ」」
『ニナはユフィのドール。ユフィだけのドール。だから、ユフィと一緒にいていいのはニナだけ』
思わず固まる私とエリーさん。
ニナは私の服の袖を掴みながら、じ~っとエリーさんから目を離しません。これは、お、怒っているのでしょうか?
するとそんなとき、コロシアム会場に大きな声が聞こえました。
『――うむ! お見事!』
私やニナ、エリーさん、ボーマンさん、会場にいる皆さんがそちらへ目を向けます。
コロシアムの最上段。王族専用の展覧席で、冠を被ったあの方が拡声器を持っていました。
『これからのドールの可能性を感じられる、素晴らしいエキシビジョンでした。よもやこれほどまでにドール技術が進化しているとは驚きました。皆さま、どうか立派に戦った彼女たちに、盛大な拍手を!』
手を広げてそう話す王様。すぐに会場全体から拍手が巻き起こります。
まさかです。
なんと、なんと、なんと!
その方はこの国で一番偉い人。
お、王様だったのです!
私は思わず正座をしてしまいました。すると『ニナ』も私を真似たのか、隣で同じように座ります。
さらに王様は言いました。
『さて、ユフィール・パルルミッタ殿』
「は、はい!」
その声に、背筋を伸ばして返事をします。
まさか王様からお声を掛けていただくことがあるなんて思いもしませんでした。そもそも王様が見ているなんてまったく知らなかったのです!
そして王様は言いました。
『貴女のドールは素晴らしい。まさに『伝説』の再来。素晴らしい技術です。そこで是非、貴女には私専属の『魔導人形技師』となっていただきたい!」
また、会場から大歓声が上がります。
王様専属の、ドールマイスターに?
わ、私が?
「な、な、なんということでしょう……! すごいですわユフィールさんっ! これであなたの成功は約束されたも同然! ついに認められたのですわよ! こんなに名誉なことはありませんわ! やりましたねユフィールさん!」
「エ、エリーさん」
「さぁ、この場ですぐに返答を!」
自分のことのように喜んでくれるエリーさんに背中を叩かれます。
王様専属のドールマイスター。
それは、大変に名誉なことです。この国に暮らす多くのマイスターが夢見てきた存在です。かつてそんな大役を果たすことが出来たマイスターはいません。
まだ本格的に独り立ちしたわけでもない、学生の私にそんなお声が掛かるのは、信じられないほどの幸運なのです。エリーさんの言うとおり、約束された成功が待っているのかもしれません。
隣で、ニナがじっと私を見ていました。
私は、返答を決めました。
「王様!」
正座をしたまま顔を上げます。会場のみんなが、静かに私の言葉を待っていました。
私は、大きな声でこう言いました。
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