第4話 鋼の象牙

「おじさん。覚悟はできてるよね?借りを返させてもらうよ」


それは剣と呼ぶにはあまりにもデカく、幼女の身長を遥かに超える大きさだった。鈍重な黒色をした剣身は切先がついておらず平らになっていた。刃は鋭くないが、それは剣の質量でなんでも叩き切ってしまうことを意味している。鍔はついておらず、柄には荒く巻かれた赤黒く変色した皮とそれを接着する為のにかわが光っていた。そして柄頭は丸くて真ん中に穴が空いており、柄に巻かれた皮の余った部分が結ばれていた。


「まさかこれを使えるとは」

どう見ても剣のサイズ的にも幼女の体格的にも扱えるわけがないと思うだろう。だが、

「ほならいくで。相棒」


低重心から繰り出された横薙ぎはテーブルや椅子を吹き飛ばしBの腹を捉えた。

なぎ倒されたBはカウンター席に激突するとそのまま動かなくなった。一瞬の出来事だったので彼は絶命する絶望も感じなかっただろう。


「この野郎、よくもディーラを」

Aがアノを振り払い突進してくる。

「おじさん。やるんだったら外でやろうよ」

「知るかボケェ」

幼女の腕がありえないほどに膨張している。獣人族は見かけこそ可愛いものの、獣譲りの恐ろしいまでのパワーが取り柄であり人間の腕の一本や二本簡単にへし折れるくらいの筋肉量はある。

「うりゃぁ」

真上から愚鈍な鉄塊が地に振り下ろされる。しかし、攻撃は当たらず行き場を失った剣は床を捉えた。あまりの重さに床の板がバキバキに砕かれ飛び散る。

「貰ったァ!」

ダガーを構えたAが突進してくる。

「危ない!!」


しかしAの刃が刺さる直前、幼女は地面に刺さった鉄剣を軸に横に飛んでそれを回避した。そのまま一回転してAの背中に回し蹴りを入れる。

「こいつは私の獲物よ!」

体勢を崩したAの脚にアノが棒を引っ掛け転びかけた。Aはそのまま頭を地面にうったようで首が折れる嫌な音がした。


「ざまあないねおじさん。ボクにたかったのが間違いだったね。それに酷いじゃないかちっちゃい子を殴るなんて。ボクこう見えてもまだ十三だよ」

どうみたって十歳ぐらいにしか見えない。

「こ……あ………とで…め……」

「うるさいなぁ」

幼女はAを蹴飛ばし、えいと剣をバットの様に振ってAを外に向かって「打った」。

Aは海老反りの格好で店のドアを突き破り外へ消えた。


「あの子なかなかやるじゃないの」

あんな小さいヤツが暴れ回るのを見てるとなんだかくるものがあるな。

「でも心配だし表に出てみましょう」


「ねえ。大口叩いててその程度?呆れるね」

表に出てみればなんてことはない。Aは幼女に完膚なきまでに嬲られていた。

「う……………うぼっ…」

「汚いもん吐くんじゃないよ」

野次馬の蔑視を受けるAを貶しながら足蹴にする幼女。


「ねえ、みんな。こいつの悪行知ってるでしょ?」

人々は口々に借りてもいない金を請求されたの酔っ払った時に恐喝されたの騒ぎ出した。

どうやらこやつは中々の悪党だったらしい。


「やっぱ娑婆は怖いな」

思わず率直な感想を漏らしてしまう。

「でもそれがいいの」

アノの顔は憎悪と嘲笑の混じった表情を浮かべていた。

「力があったものは力を削がれるとああやって復讐される運命にあるのよ。」

野次馬達が殺せコールを始めた。

「まっ。待て待て。か……金はもういいか…」




「潰せ。チューマテンボファング鋼の象牙

天から振り下ろされた大剣は悪党の体を半分に斬り裂いた。

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転生したら異世界で腐女子と共にガチムチを囲うことになりました。~彼女の為のハーレム〜 氷ノ内(ひょうのうち) @hyounouti

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