最終話 口の減らねえ甥っ子


「兄さん、やはり大学教授ね」


一週間後、妹から電話がありました。甥の孝之は気持ちを入れ替え、しっかり勉強して、無事に追試をクリアしたとのことでした。


「憎たらしいけど、『伯父さんはママとは違う』って、こればっかり。

兄さんがどんな話をしてくれたか言わなかったけれど、まあ、いいわ。今回は何とか落第せずにすんだから」

「ははは、大学教授も時には役に立つか」

「はい、本当にありがとう」


電話越しではありますが、妹の笑顔が見えるような気がしました。


「あ、それから、これは言っておかなくちゃ。ねえ、兄さん、いつまでシャラポアなのよ」

「あ、いや、あれは冗談だぞ」


孝之の奴、余計なことを、それも一番面倒くさい相手に喋っていました。


「ねえ、伊達さんの方がいいわよ。独身だし」

「え…」

「ロシア文学とテニスは関係ないでしょう。伊達さんなら、私は大歓迎だけどね。

「ははは、バカ言ってんじゃないよ」

「兄さんこそ、あっははは」


今度、孝之が来たら、「余計なことを喋るな!」と、とっちめてやろう。

いや、待てよ。これくらい口の減らねえ奴ならば、将来は大物になるかな、逆に褒めてやりますか、ははは。

コーヒーはすっかり冷めてしまいました。もう一度淹れるか、いや、やめましょう。このまま寝ればきっといい夢が見れます。


それじゃあ、お休みなさい。


                                  (了)

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留年! 椿童子 @tubakidouji

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