三 夢精
その夜半、市三郎ははっと目を覚ました。
夜は冬が近づいているので肌ざむかったが、布団をはぐった市三郎の体は汗で濡れていた。何という夢を見たのか!珍しく夢の場面が鮮明に甦った。
自分はきらやかな振り袖を来てそれを脱ぎ始めている。錦の袴の前を解(ほど)き、長い袴紐を解(と)いて正絹の侍帯の後ろの太鼓を緩める。ゆっくりと三重の布を下に落としてゆく。そして襦袢も脱ぎ去るときつく下帯をしめた、大人になりきっていない肢体を持つ者となった。夢の中で自分の肉体をどこからか見ている。
奈良興福寺に行ったとき、西金堂に置かれた如来とその脇侍、守護の像を見た。武士の子として鎧を纏った守護神将に興味を持ち、子供ということでその後ろに回って背中から見ることが出来た。
正面のお顔はみな恐ろしい外来の鬼神ということだが、背中から腰はみな優美な曲線で腰を捻り、子供ながら、いろめかしいと感じたものだ。
今、夢の中では自分がそのなまめかしい背とくびれた腰、腰の中途から背骨が反り曲がりお尻を突き出し、そこから滑やかな太ももが生えている。いつぞや一刀流の道場の支度部屋で笹之介が道着に着替えている姿がそうだった。
そしてぼんやりと見えていた人が霧の中から出てきた。
葉右衛門だった。
葉右衛門が近寄り下帯しか着けていない自分の肩を抱く。そして顔が近寄りあの笹之介にしたように口を合わせる。
「あっ!」
下腹に葉右衛門のなにかが触ったと思った瞬間、熱く股の奥深く溜まっていたものが噴出したような感覚がした。そして引いては寄せる波の如く、とくんとくんとあの恥ずかしい器官が脈打った。
そこで目が醒めた。股間の痺れるような感覚はまだ残っていた。そして恐る恐る手を下帯に挿し込む。そこはじっとりと濡れ、なにか粘ったとろとした感触の汁が指に絡んだ。
(これは・・・)
市三郎は少年が男(をとこ)に目覚める時に始まることだということを兄の又五郎から聞いていた。
(葉右衛門様・・・)
市三郎ははじめての一人寝の寂しさを理解した。
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