第12話 みきわめ
教習所の受付にいる相武似の女性スタッフさんはきっとCLASSYを参考にしているのだろう。アラサーとOL系をいったりきたりしてるんだ。間違いない。もう一人の矢口似の人は多分SWEETを愛読している!間違いない!
うん。どうでもいいんだ。ただなんとなくそう思っただけだから。
今日の技能教習はみきわめだ。
これまでの第一段階で学んだ事の集大成をここで見せる事になる。
無事みきわめOKとなれば、晴れて仮免試験だ。
頑張ろう! と心の中で叫びつつ、実際は極限に近いぐらい緊張していた。
頭の中でいろいろシュミュレーションしているのだが、いざ車に乗ったら真っ白になってしまいそうな気がする。
大丈夫。
自信を持て。
俺ならできる。
きっと大丈夫。
早速配車カウンターで原簿をもらい、車に乗り込む。
チケットに書いてある指導員の名前を確認。
・・・知らない名前だ。
おいおい。ただでさえ「みきわめ」という前半戦のクライマックスによりによって初めての人を当てるかね?
みきわめの緊張にさらにどんな指導員なのか? という恐怖感がプラスされ、早くも心臓は破裂しそうになっていた。
どうか馬の合いそうな人でありますように!!
しかし現実は非情である。
やってきたのは星一徹風の怖そうなおじさんの指導員だった。
いや、もうここまで来たら指導員が誰であろうと関係ない!!!
とにかく自分の力を見せることだ!
そうだ! 俺はやればできる子なんだ!
開口一番、一徹風の指導員さんは
「今日は俺は何も言わないからね。全部自分でやるんだよ! わかった?!」
とナーバスになっている俺の心をさらに揺さぶるような言葉をくれました。
そりゃ・・・みきわめだから指導員が何も言わないのは分かるけど・・。
そして極限の緊張を維持したまま始まったみきわめ。
案の定、結果はボロボロでした・・。
完全に頭の中は真っ白で軽くパニック状態。
指導員の言葉は耳に入らない。いつもなら簡単に曲がれる左折も何故か大回り、指示されたコースを通り過ぎる。ハンドルふらつく。
まるで矯正ギブスを付けられたようだ。
初めて乗ったときより酷い状態だった。
おまけに、極限の緊張で指導員の言葉に頷いてばかりいたため、
「キミは元気がないな! ちゃんと返事をしなさい!!」
と叱られる始末。もうそんな余裕ねえっつうのに。
表情で察してくれよ、と心の底から思った。
もちろん結果は×。
今までで一番最悪の教習だった。
なんで大事な局面でこうも駄目なのか。
あまりの自分の駄目さ加減に最後は指導員にも同情される始末。
「・・・まあ、次は頑張ってな」
「・・・はい」
帰り道、あまりの悔しさで空き缶を思い切り蹴っ飛ばしてしまった。
なんでこんなに上手くできなかったのか?!
いくら指導員が初めての人でちょっと怖そうだったからといってもこうもボロボロになるとは・・・。
帰り道、俺はドトールで抹茶ラテを飲んだ。
少し瞳がうるんでいたけれど、元気も出てきた。
抹茶ラテ、うめぇ!
それでもやっぱり本当に悔しくて悔しくて、その日は夜も・・・まあバッチリ眠れたわけだが。
過ぎた事を気にしても仕方がない。
俺はあまりにも緊張しすぎていた。やはりみきわめ前の教習から1週間以上も間があったら、そりゃ緊張もするさ。
エンストしたらどうしようとかそんな下らないことばかり考えていたし。
だから俺は二日後に時間を作って再び教習所に乗り込んだわけさ。
今度は乗車前も比較的落ち着いて座っていられた。
目を閉じて、頭の中で前回のコースのイメージトレーニングを繰り返していた。
そして配車カウンターで原簿をもらい、真っ先に指導員を確認。
・・・・やべえ。また知らない人だ。
もういい加減にしてくれないか、とさすがに知っている指導員に変えてくれと訴えようかとも思ったが、これも運命とそのまま車に乗り込む事にした。
指導員が誰でも関係ない。
俺がちゃんとした運転をすればOKをもらえるのだから、
と気持ちを切り替えて、指導員が来るまではずっと運転操作のことだけを考えていた。
やってきた指導員は、今度は前回とはうって変わってとても柔和そうなおじさんだった!
とりあえず一安心。
「うん。今日は、ああ~・・と、うん、みきわめ。そうだね。いつもどうりの運転をすればいいからね。リラックスしてね。うん。」
・・・そのときの最初の指導員の言葉に、俺がどれだけ救われたか分からない。
おかげでとっても楽になった。
結果は、丸。
前回とは別人のような運転で楽々とみきわめをもらえた。
「うん、いいね。問題ないね。本番もこの調子で頑張ってね」
と、おじさんは俺に原簿を渡して颯爽と去っていった。
ありがたい。本当に助かった。
指導員が誰でも関係ないと思っていたが、まさか一緒に乗る指導員次第でこんなにも運転が変わるとは思わなんだ。
やっぱり相性とか、そういうのもあるのかな。
前回は指導員との相性以前の問題だったが、
やはりみきわめとか、重要な局面では、
せめて以前乗ったことのある指導員であってほしいよ。
とにかくこれで、やっと第一段階全て終了。あとは試験のみ。
何だかんだで所内だけで+5時間オーバーになってしまったな。
途中ブランクとか、その直後の狭路さえなければもっとスムーズに突破できたろうに。
せめて狭路まで終わってから間隔あければよかった。
もっと頑張るべきだった。
反省。
やっぱり免許は一気に取るに限るな。MT車は特にそう思う。
所内だけで+5時間オーバーとか、年齢とか考慮してもヘボすぎる。。
どんだけセンスねえんだ俺。今から路上が心配だぜ。
追加料金確定おめでとう俺。
でも、一度も復習項目が付かずに卒業した人は意外と事故を起こすらしいと聞いたことがある。根拠は不明だが。教習所によっては多少危うくともポンポン印鑑を押してポンポン卒業させてしまうところもあるのかもしれない。路上で危うくてもポンポンハンコもらっていったら免許取ってから事故起こしそうで怖いな。マジで。どうか路上で乗る指導員さんには一回一回しっかりみきわめて欲しいものだぜ。
まあでもその辺は心配ないだろう。
俺が通っている教習所の卒業生の事故率は他の教習所と比べて
ダントツに低く、都内1・2位を争う程らしいし。
そんなことを学科で指導員が自慢気に話し、教習生一人一人に理由を尋ねていったことがあった。
指導員の指導が論理的でわかりやすいからだ、とか。
学生が多く車に乗る機会が少ないからだ、とか。
ペーパードライバーが多いだけじゃないか、とか。
いろいろな意見が出たが、一番多く、指導員も認めていたのは教習所周辺の交通事情が厳しい、というものだった。
教習所近辺は地図で見ても結構入り組んでいる。複雑な道が多い。
山の手通りに国道256号線と都内でも屈指の大通りを路上で走るのだから教習も自然と実戦に即した形になるのだろう。
いまから路上に出るのが・・・怖いぜ・・。
まあとにかく、路上のことは路上に出る事が確定してから考えよう。
まずは仮免試験に受かることだ。復習とか本当に勘弁してほしい。
目指せ、一発合格!!!
派生元作品はこちら
https://kakuyomu.jp/works/1177354054890338560/episodes/1177354054890338592
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます