第10話 牧場へ行こう
お盆休みも終わり、職場復帰は骨が折れた。毎年この時期は忙しい。仕事中の莉来にそれとなく声をかけることもできないぐらいお客さんの数の暴力にさらされる。
「後処理は後でして、先に電話を取ってください。捨てこ出さないように」
俺は必死に指示を出すが聞いてるのか聞いていないのかオペレーター達はマイペースを崩さない。気持ちは分かるがここはSVの指示に従って欲しいもんだ。
「今日の段君、ちょっと怖かったよ」
家に帰った後、莉来からLINEが来た。
「ごめん。仕事に必死すぎたんだ」
「でも私には優しかった。上席対応も応じてくれたし」
「はは、当たり前だろう」
莉来は最近オペレーターとしては伸び盛りだ。仕事にも慣れてきてお客さんのクレームも笑顔でかわせるようになってきた。
「ところで花火大会なんだけど、行けそう?」
「勿論行くよ。2人でね」
「みんなと一緒に行った方が楽しいよ」
「え?」
「牧野さん達も呼ぼうよ」
なんと莉来の方からご指名が入った。莉来は牧野さんがバイトしてる男装喫茶のお店に行ったらしく、そこで牧野さんの魅力にどっぷり嵌ってしまったらしい。牧野さんは男顔で超絶可愛いが、その彼女が男装すると莉来曰く神の領域に近づくらしい。写真NGの店のため、その男装姿の牧野さんをお目にかかれないのが残念だ。
俺はさっそく東矢とLINEで会話した。
「東矢、ひさしぶり」
「おう、おひさ」
「ところで今週の土曜日とか予定ある」
「ないよ」
「よかったら花火大会に行かない?」
「いいね」
「できれば牧野さんと日下さんもつれてきて欲しいんだけど」
「いいよ。ただ日下っちは行けるかわからない」
「いける人が確定したら教えて欲しい」
「おk」
それからしばらくして、東矢から二人とも大丈夫と言うLINEがきた。
東矢は日下さんとルームメイトらしく、すぐに確認できる。牧野さんは向かいの部屋に住んでいるらしく、やはり連絡は容易らしい。女性と同居とか随分女に恵まれているな、東矢は。俺は少しだけ東矢に嫉妬心を覚えたが、日下さんのようなサディスティックな人と同居って、属性が無いと地獄だろうとも思えて俺は東矢に少し同情した。
「東矢さんと日下さんって一緒に暮らしてるんだね、付き合ってるのかな」
莉来が興味深そうなLINEを送ってきた。
「あの二人はルームメイトだって。特に何も無いらしいよ」
「うそ、信じられない」
「東矢には他に好きな人がいるらしい。片思い中なんだと」
「うそ、東矢さん可愛そう。報われるといいね」
「そうだね。ところで花火大会の件だけど、どこ行く?」
「あのね、パパン牧場で土日花火大会がやってるんだって。せっかくだからそこで一日過ごそうよ」
「へえいいね、それ。でも混んでるんじゃない」
「調べたらそうでもないらしいの。だから行こう。東矢さん達にも伝えて」
「了解」
俺はさっそく東矢にLINEを送った。
「場所なんだけど、莉来がパパン牧場に行きたいらしいんだよね」
「パパン牧場? あそこって花火大会やってるの」
「莉来が言うにはやってるらしくて、一日そこで過ごそうという話らしい」
「なるほど、面白そうじゃん。二人にも伝えとくわ」
「頼んだぜ、東矢」
「おk」
その後再び東矢からLINEが来て、二人とも行けるという返事をもらった。
それを受けて俺は莉来に伝えた。
「やった。よかった、うれしー」
「そんなによかったか」
「だってあの人達と遊ぶの楽しいんだもん。そうだ、今度キラキラススガタマのカード見せてあげるね」
「そのカードって何?」
「牧野さんのブロマイドだよ。牧野さんに特別にもらったの。超嬉しい」
なんだか莉来が楽しそうで俺も嬉しくなった。彼女はあまり社交的な性格ではないから心配してたけど、彼らとは馴染んでいるらしい。
でも正直な本音を言えば、莉来と二人きりで行きたかった。俺達は恋人同士なのだから、二人だけの時間があってしかるべきだ。
ただ莉来にそれを言うと口論に発展しそうなので言えずにいた。お互い初めての彼氏と彼女だから、彼女は慎重になっているのかもしれない。年の差もあるしそれは無理もないことだ。しかし今後もこの状況が続くようなら一度二人で話し合いをする必要があるだろう。大人で年上の俺が巧みにリードしなければいけないのだが、どうも莉来のペースに引っ張られているような気がするのは問題だ。
派生元作品はこちら
https://kakuyomu.jp/works/1177354054890338560/episodes/1177354054890338592
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