夏思いが咲く~夏の宿題~

大月クマ

田舎の小学校

「皆さん、夏休みの宿題はちゃんと持ってきましたか?」


 はーいッ!


 と、が返事をしました。

 長い夏休みを開けて初めての登校日。

 うちのクラスの子達は、ちゃんと揃っているようですね。

 まあ、昨今の少子高齢化。しかも田舎の小学校は、クラス分けもなく、ましてや学年わけをするほど子供達はいないので、欠けることはめったにありません。

 赴任して、最初は一年生から六年生までを全部担当、と言われた時は驚きました。

 何せ全校生徒が5人しかいないのですから。

 都会の小学校とは大違い……いや、都会の小学校にもいいことはありますよ。


「では皆さん。春からの先生の宿題はやってきましたか?」


 はーいッ!


 と、が再び返事をしました。


「先生が見ていないうちに、黒板に貼りだしてね」


 私はそう言って、教室の後ろで黒板に背を向けました。

 実は春からみんなにお願いしていたことがあったのです。


 それは、


 夏休みの宿題として、ヒマワリの絵を描いてきてね。


 と、言うものです。

 夏休みに入ってから種をまいたところで育たないので、春からお願いしていたこと。


「さてさて、みんなはどんな絵を描いてきたのかな?」


 振りかえってみると、おのおの個性的な絵の数々……。


「これは誰の絵かな?」


 ヒマワリ畑に、いがぐり頭の男の子がVサインしています。


「はい!」


 と、いきよいよく手を上げたのは、五年生のかいじょう君。


「ズルいよな、つよし。使っていない畑全部に種、蒔いたんだよな……」

「いいじゃないか、多い方がいいよ」


 となりの六年生の新命しんめい君はちょっと不満げです。

 その新命君の絵は……こちらかな?

 むぎわらぼうしを被った男の子が、背の高いヒマワリを見上げている絵です。


「それは僕の絵です。高さを競いたかったです」

「新命君。これはどれぐらい大きくなったの?」


 絵で誇張されているとは言っても、2メートルぐらいはありそうなヒマワリ。


「3メートルです」

「えっ? どうやって育てたの?」

「支柱を立てました」


「お前だって、ズルしているじゃないか」


 と、海城君が横からツッコミを入れます。


「ズルはしていないさ。日本一は7メートルもあるって言うじゃないか」

「なっ、7メートル!?」

「それも支柱を使っている。僕がズルというなら、その人もズルになるよ」

「そうなのか……」


 さて次の絵は……あれ?


「ごめんなさい。それは僕の絵です」


 申し訳なさそうに手を上げたのは、四年生の大岩君。


「何だよ。大ちゃんはネズミの絵じゃないか」


 と、海城君は笑いました。

 たしか、ヒマワリの絵をと言う話でしたけれど……そこに描かれているのは、丸々としたハムスターの絵。

 何か理由があるのでしょうか?


「ヒマワリの種を買ってきたら、母ちゃんが間違ってに種をあげちゃった」

「何だよ。このネズミ、ヒマワリって言うのか?」

「ネズミじゃないやい。ハムスターだい!」

「お前と一緒で、こいつも食いしん坊なんだな」


 さて次の絵はと……おっと、これは予想を超えました。

 白い鉢の中にヒマワリの花が三輪。


「それはわたしの絵です」


 と、手を上げたのは三年生の松山さん。


「植える場所がなかったので、鉢で育ててみました」

「なるほど。苦労した点は何ですか?」

「毎日欠かさずの水やりと、育ちの遅い芽を取らなければいけないのが、かわいそうかなっと思いました」

「なるほど。よく育てましたね」


 さて次の絵は……って、おっとこれは何でしょう?


「この絵は、明日香君のかな?」

「そうです」


 と、二年生の明日香君は静かに答えます。


「何だよその下手くそな絵は。ヒマワリじゃなくてキクだよ」


 またしても、海城君は笑いました。

 たしかに彼の言うとおり、キクのような黄色い花が描かれています。

 そんな明日香君は鼻で笑うと、


「モネのヒマワリだよ。知らないの?」


 と、言いました。

 ちょっとませた感じがある明日香君ですが、ここでもそれが反映されたようです。


「モネだかマネだか、よく分からん」

「つよし、ヒマワリはキクの仲間だぞ」


 新命君の言葉に、海城君は目を丸くしました。そして、周りを見回すと松山さんや明日香君はためらわずにうなずきました。

 おくれて、大岩君もうなずいていたけれど、この子は知らないのじゃないかな?

 ともかく、私はこの場を閉めなければなりません。


「いろいろとみんな個性が出て、夏の思い出が花咲いたんじゃないでしょうか。

 皆さんの心の中に、いい思い出が……」

「先生! 先生の絵はどうなったんだいッ!」


 あっ、こういうとき海城君は……流そうと思ったのに――。

 この宿題のときに、生徒達と約束していました。

 先生も絵を描いてくると……。

 だけれど、なんだかんだと忙しくて、種さえ買えず……もちろん、育てていませんでした。


「そっ、そうね……」


 チラリと、職員机への後ろに隠した絵を見ました。

 だけれど、言ったことを守らなければ、示しが付きません。


「これが先生の絵です!」

「先生のが一番ズルいや!」


 私が描いたのは、夜空に咲く大きな仕掛け花火のヒマワリです。

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夏思いが咲く~夏の宿題~ 大月クマ @smurakam1978

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