6. メトロに乗って
「地下鉄に揺られる時間、なんか好きなんだ」
さっきバイバイと言ったばかりの
彼女からのLINEの通知が鳴った。
社会人になり間も無く1年半、
濃密で、退屈で、精神がすり減ったなと思う毎日だ。
1年前。
気づかなくていいのに、ふとした勘が働いて、周りに聞かなきゃよかったのだが。
「言わなくてもいいと思って」
彼女は僕の友達とかつて付き合っていたことを隠していた。
隠してくれていた。
どうして悲しくなるんだろう。
「長く付き合ったわけじゃないんだよ」
「絶対に知られたくなかった」
「傷つけたくなかった」
今となってはどうだっていいこと、
過去のこと、
彼女も忘れようとしている。
どうして悲しくなるんだろう。
そのことを知ったとしても、知らなかったとしても、今となってはどちらもとっても惨めだ。
砂糖とミルクの入ったコーヒーが苦すぎて吐いた。
そういや甘いのは嫌いだったのに、なんであんなに入れちゃったんだっけ。
でも今になって思う。
あんなに悲しい気持ちになったのは、それだけ愛していたからなんだろうな。
隠してくれていたのは、それだけ愛してくれていたからなんだろうな。
ふと隣にいる彼女を見る。
「仕事行く前にホットケーキ、焼こっか」
ずっと一緒にいたら、薄れてしまう気持ちがあると思うけど、
それが当たり前にあるものじゃないんだよと思いながら、
僕はたっぷり蜂蜜がかかったホットケーキを食べた。
「行ってらっしゃい!」
仕事に向かう地下鉄は、あまり好きじゃないけど、
彼女と乗る地下鉄は、優しく僕らを揺らしながら、明日へと連れて行ってくれるから大好きだ。
デイドリームビリーバー 坂崎淳 @jjpalapala
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