しろくまたばこ店 *時

 零時をこえるとき、人はみんな息をとめてしまうらしい。

「一日いちにちは結ばれてるように見えて、あいだに小さな隙間があるんだよ。だから息をとめるんだって」

 こっそり教えてくれたしろくまさんは、自由研究で宇宙のひみつをしらべているのだった。

「じゃあ、隙間におっこちちゃうかもしれないの?」

 尋ねると、しろくまさんは神妙な面持ちでうなずき、そうかもしれない、とつぶやく。

 もし本当に、日々の隙間に落ちてしまったらどうなるのだろう。わたしは想像する。

 そこは暗闇で、おなかがすいたり、歳をとったりすることがない世界に違いない。周りを見わたすと、同じように隙間に落ちた人たちが驚いた顔のまま浮かんでいて、わたしも同じような表情なことに気がつく。そしてようやく事の重大さに気付いて、恐怖するのだ。

「それって、ブラックホールみたいだね」

 そう言うと、しろくまさんは驚いた顔をした。

「そうかなあ。ぼくは、ゆめの世界みたいだなっておもったよ」

 意味がわからずにいると、しろくまさんはうれしそうに続けた。

「だって、ずーっとお昼寝してられるでしょ。零時の隙間なら、きっと星もきれいに見えるんだろうなあ」

「戻ってこられなかったらどうするの?」

 しろくまさんははっとして、わたしを見た。

「それはこまるね」

 頭のなかに、永遠にお昼寝をしつづける自分の姿が浮かんだのだろう。しばらく困惑していたしろくまさんは、じわりと涙をにじませた。

「どうすればいいだろう」

 わたしは少し考えて、しろくまさんに提案する。

「じゃあそうならないように、今日はいっしょに隙間をとびこえようか」

 頭をなで、目線を合わせながら言うと、しろくまさんは顔を明るくした。ぶんぶんとうなずき、きらきらの瞳を輝かせて、じゃあおやつを買ってこなくちゃね、とぱたぱた走りだす。あ、ちょっと待って、というわたしの声は、しろくまさんに届かなかった。

 苦笑いして、ため息をつく。しょうがないから、はやく帰ってお片付けをしよう。それからおきゃくさま用の布団を出して、しろくまさんのお気に入りクッションも出しておこう。オレンジジュースも買わなくちゃ。

 今夜はひとまず、たのしい零時が迎えられそうだ。

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しろくま×××店 七草すずめ @suzume_nanakusa

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