付録
『くつのなかのいしころ』 大也こうづき 作
いまからそんなにとおくないむかし、といってもきみたちがまだうまれたばかしのころ、“トコちゃん”というおんなのこがいました。
トコちゃんはあるくのがだいすきで、はいはいしてるときからあっちへいったりこっちへいったり、おかあさんおとうさんの目をぬすんではぼうけんする女のこでした。
トコちゃんがたってあるけるようになったとき、おかあさんがトコちゃんにちっちゃなくつをプレゼントしてくれました。
そのくつはほつれにくいデニムのきじで、足にぴったりのサイズでした。あんまりはきごこちのいいものだから、トコちゃんはすぐ、そのくつがすきになりました。
ある日トコちゃんはいいました。
「なんだかくつのなかがごろごろするの」
おかあさんとつないでいた手をはなしまして、くつをぬいで、かた足でたって、トントンして、ごろごろのしょうたいをさぐります。
すると、ごまつぶみたいにちっちゃくて、まあるいいしころみたいなものがころんとおちてきました。
トコちゃんが「なあんだ。こいしかあ」とむくれたかおをしていると、おかあさんが「あら?」とこえをあげました。
「これ、たねじゃない? なんのたねかは、わからないけれど」
トコちゃんはおかあさんがかってくれたちいさなはちうえに、えいようたっぷりのつちをいれて、そこにくつのなかからおちてきたまあるいいしころを、そおっとうめてあげました。
それからおへやのいっとうちの、まどぎわにおいてあげました。
ほんのちょっぴりだけ、ものごころのついていたトコちゃんはおもいました。
「こいしがたねなんて、おかあさんへんなこというなあ」
そこから、トコちゃんのまわりでふしぎなことがおこりはじめました。
目がさめて、トコちゃんはびっくりしました。リボンのむすばれたこいぬが、トコちゃんのまくらもとに、すやすやねいきをたてて、しあわせそうにねむっていました。
「おかあさん! ゆめのくにから、おともだちがあいにきてくれたの!」
トコちゃんはどんどんすくすくせいちょうしました。
デニムのくつから、かけっこズック、土でよごれたりくじょうシューズ、かわのローファー、おしゃれなスニーカー。
ところどころほつれて、つぎのくつになって、こんどはくつぞこがはがれて、またあたらしいくつになります。
やがて、おとなになったトコちゃんは、せかいいちすきなひとにであいました。
そのひとと、たのしいことやうれしいこと、くるしいことやつらいことを、たくさんのりこえて、かわいい子どもをさずかりました。
たってあるけるようになった子どもに、デニムのきじの、足にぴったりのくつをかってあげて、トコちゃんはそっと、いつかおかあさんがそうしてくれたように、その子のくつに、はなのたねをいれてあげました。
「ねえ、ママ」
「なあに?」
「なんだかね、くつのなかがごろごろするの」
くつをぬいで、とんとんして、でてきたおはなのたねに「なあんだ、いしころだ」とむくれたかおでいう子ども。
トコちゃんは、えがおをむけて、いいました。
「これ、たねじゃない? なんのたねかは、わからないけれど」
「たねなの? すごい!」
「おかあさんとそだててみよっか」
夕やけのまちにふたつ、ながいかげとみじかいかげが、ゆっくりゆっくり、のびていきました。
おしまい
Wander, Whisper, with Wagen 籠り虚院蝉 @Cicada_Keats
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