僕と彼女の日常。

いちごミルク

第1話 出会い。

ぐぅ~、とお腹の音が鳴った。

今にも倒れそうだ。いや、もう倒れている。

僕は公園のかまくらみたいな滑り台の影にいるんだが...起き上がる気力すらない。

それほどまでに、空腹に陥っているのだ。

ふと空を見ると、青色がいっぱいに広がり綿菓子のような雲は消え、ギラギラと眩しい太陽が挨拶をしている。

僕の空腹の音も雲のように消えてくれたら、どれだけ楽か...悲しいかな。それは起こり得ることが不可能だから(泣)。

生きているものは必ずお腹が空く。人や動物、この世に命が宿っているものはどうしても、食べていかないとこの世界で生きていけないんだ。

もちろん、1日ぐらいなら食べなくても平気なものはいるだろう。

でも、僕のような一週間も食べない奴は違う。

最初は耐えることが出来たけれども、一週間もたってしまうと限界が訪れてしまい、腹は声を上げてばかりだ。周りに生えている草が食べ物に見えてしまう。

蝉の鳴き声も聞こえ、暑さや空腹に耐えれなくなってきた僕は幻覚が見え、次第に意識が空に行きそうだ。

瞼を数回閉じては開いているとき、自分がもうすぐこの世界から消えてしまうことを自覚してしまう。...消えるまでに美味しい物を食いたかったなぁ~。

と、自身が叶いもしないことを思い果てていると誰かが近づく足音が聞こえてきた。

その足音に自然と耳を傾けている僕に、神様は幸か不幸かチャンスを与えてくれた。

「大丈夫?生きてる?」

足音の人物は僕の目前に止まると、心配そうに声をかけてきた。

なんとか一言だけ返事をした。

閉じようとした目をうっすらと開けると、その人は女性だった。

艶がある黒い髪は肩まであり、花柄のワンピース?みたいなの着ている。

一目見た瞬間僕は...美しいと感じた。

周りにいる者たちは僕らのことを見てはいない。見ようともしていないし、そもそも公園の片隅に居るのだから無理もない。

それから彼女はなにかを必死に語りかけていたが、僕の意識は途中で途切れてしまった。



目を開くと、眩しい光に照らされた。

ゆっくりと体を起こすと、さっき声をかけてくれた人が瞳に雫を溜めながら白い服を着た人(おじいちゃん)と話していた。それから僕に何回も、よかったね!よかったね!と声を投げ掛けてくれている。

なぜ、見ず知らずの僕を助けてくれたのだろう?

その疑問で頭がいっぱいだ。

僕はあのとき...確かに死を自覚していた。

死ぬことに対して罪悪感や恐怖心というものは抱いていないし、どちらか言えば後悔という代物が残っていた。

そんな僕を、彼女は助けてくれた。

手を差し伸べてくれた。

それはそれは、神様のような存在だ。

普通の人から見るとただ女性が倒れている者に声を発しているだけに見えるだろうが、僕の瞳は彼女を神様のような、天女のような存在だと認識してしまった。

それから今僕がいる見慣れない場所に連れてきてくれて、助けてくれたのだ。

これは、間違いもなく命の恩人だ。

彼女に感謝していると、白い服を着たおじいちゃんが僕に話しかけてきた。

「よかったなお前さん、救ってもらえて。彼女に助けてもらえて。お前さんにとって、命の恩人じゃな」

そんなことは分かりきっているよ。

それでもおじいちゃんは、口を止めようとしない。

「お前さん家族はいるのか?」

優しそうなちょっと不器用な声で、おじいちゃんは質問してきた。

...家族?なんだろう、その聞いたことのない言葉は。

僕が答えに詰まっていると、おじいちゃんは彼女の顔見て質問した。

「この子を発見したとき、周りに家族はいたか?」

「いいえ、居なかったです」

「うーんとなると、保健所に行くことに...なるか」

「それは駄目です。この子が可哀想」

難しい顔をして話している二人は、たびたび僕の顔を見て悲しそうな表情している。

二人の顔を凝視している僕と彼女の瞳が重なった瞬間、意を決したように彼女はおじいちゃんに向き直った。

「...が、私が...この子を育てます!この子の家族になります、成り行きで助けた訳じゃない。自分とどこか似ていたから、そしたら手を伸ばしていたんです。

だからお願いします!この子を引き取らせて下さい!」

と力のこもった声量で、おじいちゃんに言っている。

彼女の力強い言葉を耳にしたおじいちゃんは、やれやれと首を振り口角をつり上げた。

「分かった。あんたに任せるよ。この子を頼むよ」

「...あ、ありがとうございます!」

と、先程までの緊張した表情から明るい表情に変わった。

彼女は再び僕を見た。

「よろしくね。今からあなたは、私の家族だよ。だから私たちの家に帰ろうか」

そう優しく微笑んだ彼女は、僕を抱っこして述べていた。

僕は彼女の家族?になった。

家族というのがなんなのか僕には分からないけれども、彼女と共に過ごしていくうちにもしかして分かるかもしれない。

だから僕は、彼女に一言だけ返事をした。

その返事を聞いた彼女は、にんまりと嬉しそうにしている。

これが、彼女と一緒に暮らすきっかけになった出来事だ。

そして、彼女との出会いだ。

僕は、人間じゃない。

猫だ。

でも、彼女は人間だ。

だからたくさん、彼女から僕がまだ知らないことを学ぼう。

「じゃあ、行こうか」

こうして僕は彼女と共に、白い部屋を出た。

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僕と彼女の日常。 いちごミルク @taiki4869

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