仮想家族 もりもり村

紫 李鳥

仮想家族 もりもり村

 



 あるところに、人間と動物が共に暮らす、“もりもり村”という、自然が豊かな小さな村がありました。


 森や里には四季折々の草花が咲き乱れ、それはそれは美しい村です。


 そんな、もりもり村のお話です。


 その森の番人は、おせんという女の人です。


 お仙さんは毎日毎日夜なべをして、息子のちゃんちゃんこを縫っていました。


「早く帰ってこぉ……」


 お仙さんは独り言を呟きながら、息子の帰る日を今か今かと待ちわびていました。




 やがて雪も解け、春がやって来ました。


 耳を澄ますと、足音が……。ここで、“春の足音が”と繋げたいとこですが、予想外なのです。



 ブッシャブッシャブッシャブッシャ……


 変な足音です。


 ガタガタッ


 お仙さんが恐る恐る戸を開けると、そこにいたのは、


「お~、息子や」


 小さなクマでした。お仙さんは子熊を抱きしめました。


「……おっかちゃん、て呼んでもいい?」


「ああ、いいとも。笑ってもいいとも」


「……ハハハハ」


「ムスコムスコ。さあさあ、お入り。抱っこしてあげよう」


 お仙さんは子熊を抱っこすると、家に入りました。


 囲炉裏の鍋からは、湯気が立ち上っています。


「腹が減ってるじゃろ? おまえの好きな鮭が入った鍋じゃ。うまいぞ~」


「うん、いただきま~す」


 子熊は、うまそうに食べました。


「ムシャムシャ……ん、おいし~」


「そうかいそうかい、よかったよかった」


 お仙さんは嬉しくて、目頭を熱くしました。




 お仙さんは、心を込めて縫った青いちゃんちゃんこを子熊に着せてやりました。


「暖ったかい」


「そうかいそうかい、よかったよかった。よく似合うよ。今日からおまえの名前は熊太郎だ。いいかい?」


「うん、いい」


「おまえの本当のおっかちゃんは、……目が覚めんかった。……ごめんよ、助けてやれんで」


「おっかちゃんのせいじゃないよ。ホントのおっかちゃんが死んだのは、……鉄砲で撃たれたせいだよ。ボク、知ってるもん」


「……知ってたのかい。わしとおまえとは見た目は違うが、おんなじ哺乳類だ。家族だと思っておくれ」


「……おっかちゃん」 


「熊太郎……」


 お仙さんと熊太郎は、飽きることなく語らいました。〔見た目の違いと哺乳類について〕




 翌朝、熊太郎が森へ行くと、たくさんの友達が温かく迎えてくれました。


 ウサギにサルにキツネにリス。


「クマく~ん、おかえり~」 


 みんなが大歓迎です。


「うん。ただいま~」


 みんなは輪になって、青いちゃんちゃんこを着た熊太郎を囲みました。




♪輪になって遊ぼ~

 ぴょんぴょん

 きぃーきぃー

 こんこん

 すーるする


 ねぇ、ねぇ、ぼくも仲間に入れて~


 小鳥のぴーぴも仲間入り~



 輪になって遊ぼ~

 ぴょんぴょん

 きぃーきぃー

 こんこん

 すーるする

 ぴーぴ


 輪になって遊ぼ~

 みんなみんな~

 ともだち~




「みんな~、おやつの時間ですよ~」


 お仙さんが、バスケットを提げてやって来ました。


「わ~い、わ~い」


 みんな、大喜びです。


「は~い、キャラメルですよ。“おせんにキャラメル”な~んちゃって」


「…………」


 お仙さんのおやじギャグは、みんなには通じなかったようです。


 見た目の違いとジェネレーションギャップを痛感しながらも、お仙さんは、みんなが仲良く、元気でいてくれることが何よりも嬉しかったのです。


「クチャクチャ……おいし~」


 みんな、笑顔です。


 お仙さんは幸せだと思いました。


 実の母親を亡くした熊太郎が、私のことを“おっかちゃん”と呼んでくれたことが、……何よりも一番。


 どうか、人間と動物が共に暮らせますように……






 そんな願いを込めた、“もりもり村”のお話でした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

仮想家族 もりもり村 紫 李鳥 @shiritori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説