第70話 結社を訪ねた者

 異世界に魔王が復活したという噂を聞き、転生した武術創作集団の結社へ続々と異世界の住民が集まってくる。この魔王を倒すのがミッションということであった。ところが転生してきた連中が強すぎるので、イマイチ集まった連中が頼りない。


「キミィ、違うよ足が違うよ! 稽古してないんだな! バク転から自分の身長以上に跳躍! そこから回転蹴りたよ! いい? わかった!?」


 卍蹴り氏の総裁みたいな叱咤が飛び交う中、異世界を出自とする連中が武術に励んでいる。が、なかなか習得は厳しいようだ。あと躰道を最初に教えるというのも何か順序が違う気もする。


 そんな中、一人の女性が結社への参加を希望してきた。青の和服にハチマキ。


「武器は?」

「これを」


 Tabiさんの問いかけに彼女が腰のものを前に出した。日本刀であった。


「腕を見せてください」


 そういいながらTabiさんがカードを放り投げた。スパッと音を立て、それは半分に斬り落とされた。


「見事ですね。ではこちらは」


 布棍を振り回す。それも一瞬で真っ二つになった。


「いいでしょう。もっと大きなものは斬れますか?」


 言うが早いか、彼女は近くの大木を横薙ぎの一撃で斬り倒した。


 ふーむ、とTabiさんがうなった。しかしついさっき42.195キロを走ってきた将宏さんは難しそうな顔のままだ。


「どうですかね将宏さん」

「悪いわけやないけど、このくらいができる人は全然珍しくないんよなあ」


 しかしそれを見て、彼女は待っていたとばかりにくすりと口角をあげた。


「断面を御覧ごろうじろ」


 Tabiさんと将宏さんが木の斬り株を見る。


「ああっ?」

「なんやこれ?」


 切り株にはびっしりと漢文が書き込まれている。驚嘆の声を聞きつけて卍蹴りさんがやってきた。


「キミはてきるね! 採用たよ! 名前はなんというのかね!」 

「異世界新選組一番隊長、氷月あやと申します」


 さらりと彼女が答えた。冷や汗をぬぐって心の中で『よし! 昨日のうちにトリック仕込んどいてよかった! 本当によかった!』とつぶやきながら。


【登場人物紹介】


氷月さん:創作クラスタ(歴史・時代ほか)

冴えわたる剣技に加え、超魔術「アーキペラゴ」を使いこなす異世界のサムライ。異世界新選組の一番隊長として軍功を上げるものの、後年は文筆家に戻ることを決意し、惜しまれながら結社を去る。

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守城のタクティクス

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884546369


卍さん:武術クラスタ(躰道ほか)

躰道という変幻自在の武術を使うが、最大の特徴はかつて最強と言われた空手家の口調を受け継いだ点にある。結社の連中が稽古をサボっているとすぐに怒鳴り声が飛んでくる。技が下手でも怒られる。総裁は厳しい。

「キミィ違うよ足が違うよ!」


Tabiさん:武術クラスタ(?)

現世から持ち込んできたダイソーのタオルでヌンチャクをする人。武術家ではないので前線は希望せず、代わりにあらゆるもので即席のヌンチャクを作って兵站に従事し、結社が最後の砦を陥落させてからは野良の魔獣から被害を受けることがないよう占領地の治安維持に従事する。


将宏さん:武術クラスタ(柳生心眼流)

長距離を走る武術家。斥候や伝令として活躍し、魔王城の攻略における影の立役者となる。討伐したドラゴンのレバ刺しを食って全員が食中毒になった中、一人だけ無事だった健啖家でもある。

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