皐月レオンの日常

くまもんち

第1話 レオンとディアナのガールズトーク?


ミンミンと蝉の声は忙しなく、一夏限りの命を謳歌するように鳴いている。


「夏だねぇ......」


「そうっすねぇ......」


縁側でだらりととろけたアイスのようになっている美少女二人。片や金髪碧眼の日本人離れした人形のような美しさを持つ少女。

片や赤と黒の混じった髪に、緑色のエメラルドのような目。さらに特徴的なのは悪魔の角のようなねじれた角が生え、尻尾が生えている事だ。彼女も人間離れした美しさを持つ。

―――実際人間などとはかけ離れているが。

そんな二人がかなり広めの日本家屋の縁側で寝転んでぼーっとしている。


「そーいや......今日は何の用っすか?」


「いやー......今日はバイトもなくて暇でね。久しぶりにディアナとでも遊んだり、駄弁ろうかな、と」


「おっ、遊ぶって......遊びバトルっすか?」


「いや、そっちじゃない。というかマトモに君とやったら僕が蒸発する。うん、駄弁ろう。それがいい」


「えー......つまんないっすよー......」


「君の大好きな武器の話でもかい?」


「いいっすね!!!」


「うおっ」


突然ガバリと起き上がるディアナ。思ったよりも食いつきがいいことに驚くレオン。


「そうだね......何の武器がいい?」


「そうっすねー......銃とかどうっすか?」


「おっ!いいね。銃なら実物もそこそこな数家の地下にあるよ。でも、君なら刀とかそういう系の方が好きなんじゃ......」


「いやー......最近現代兵器で異世界を蹂躙する系のラノベ読んでてドラゴンを落とす武器についてもっと詳しく知りたいと思ってたんで!」


「あー......なるほど、君、邪龍ドラゴンだものね......でもまず君の鱗を貫ける武器なんてないんじゃないかな。対物ライフルとかを眼とかに撃つのなら別かもだけども」


「じゃあその対物ライフルで話をするっす!」


「いいよー。じゃあ、地下室行こうか」


チリリンと縁側に吊るされていた風鈴が鳴った。

日本家屋の中をもの珍しげに歩いて行くディアナを横目に本棚の本を決まった順番で押したり、専用のカードキーを使ったりと中々ロマンの香りが強い仕掛けを使って中に地下へと進み、地下室の武器庫兼試射場に移動する。


「地下は涼しいっすねー」


「ほいっと」


ごとりと置かれたのは木製ストックで、二脚の脚がついており、レオンの身長を越すほどの銃。見た感じボルトアクションのようだ。


「え......なんすかこれ?」


「マウザーM1918」


「いや、正式名称言われても......」


「世界で1番最初の対物ライフル。第一次世界大戦の時にドイツが使ってた武器なんだ。なんかおじいちゃんが持ってたから譲って貰った」


「へー......そういやいつも思うんすけど、銃刀法違反ってどうなってんすか?」


「世の中には踏み入っては行けないものがあるんだ。例え、邪龍でも......ね?」


「ヒェッ......丁度よく体が冷えたっすね」


「じゃあ説明に戻ろう。この銃は第一次世界大戦時に活躍した。悪い意味でもいい意味でもね」


「悪い意味って......?」


「この銃は反動が大きいんだ。まずマトモに、これの反動を耐えて撃つことができる人間はいない。人に寄っては骨を折ることもあったようだよ」


「うぇぇえ......好き好んで何でこんな銃使うんすか......?」


「それはね、単純にこの銃は強かったんだ。戦車を銃のみで破壊できる。それは。地雷や手榴弾でしか戦車を倒すことが出来なかった歩兵にとっては画期的な武器だったんだ」


「へぇ~。そうなんすね」


「撃って見るかい?」


「もちろんっす!」


重量は16キロ近くあり、銃身も長いため、極めて持ちずらいその銃をヒョイと持ち上げる。ディアナの小柄な体と比べると異質さが目立つ。


「まぁ、普段使ってる武器に比べりゃ軽いっすね」


「うん。異界の金属製の武器と比べちゃダメな気がするな」


「なにはともあれ撃つっすよー......どりゃあ!」


ドグォン!という重々しい発砲音と共に的にしていたマネキンを上半身と下半身に分ける。


「お見事。というか反動感じないの?」


「正直反動身構えてたよりもないっすね......」


「人間換算でどのくらい?」


「人差し指で軽くつつかれたくらいっす!」


「それもう反動ほぼないよね」


カチャリ、ドグォン!カチャリ、ドグォン!と意外と気に入ったのか半分になったマネキンに対して何度も弾を込めてオーバーキル死体撃ちをするディアナ。


「辞めて!ディアナ!マネキンのライフはとっくにゼロよ!......なんてね。1回言って見たかったんだこれ。」


「?」


弾切れになり、手持ち無沙汰になったのかコッキングレバーを引いたり引き金を引いたりするディアナ。


「気に入った?じゃあ次はこれだ」


先程よりも少し小さめの銃を出すレオン。

小さめと言ってもレオンの身長に届く一歩手前といったところだが。


「へカートII。某黒衣の二刀流剣士のラノベで一躍知名度を上げた銃だね」


言うまでもなくソードでアートな物語の方ではなくガンでゲイルなオンラインである。


「へー......これが......」


「もちろんこの銃のラノベでの持ち主の女の子のコスプレ衣装もあるよ。......胸のサイズ合うかわかんないけど」


「もちろん着るっす!」


いきなりレオンの目を憚らず、着替え出すディアナ。女同士なら問題ないという判断だろう。


「へカートII。先程の銃と違って現代の銃だね。マウザーとちがって脚が2本だけでなく、後ろに1本あったり、フルーティング加工が施されていたりと現代の銃らしいね。コッキング式なのは同じだけども装弾数は7発と先程の銃とは雲泥の差だ。

フランス軍とかが使ってるらしい」


そして、それに構わず説明を始めるレオン。

二人はやはり、少しズレているらしい。


「着替えたっす〜。やっぱちょっときついっすね」


「......」


目の前には暴力おっぱいがあった。

『バイト』中でも感じたことのない無力感。

圧倒的な戦力差に震えるレオン。

そして、それに気づかずに好きなアニメのキャラのコスプレが初めて出来てご満悦のディアナ。

―――因みに普段からコスプレしている、という突っ込みは受け付けない。


「お、撃って見てもいいっすか?」


「......その日、貧乳は思い出した。巨乳という悪を。根絶すべき脂肪の塊を」


「まあ、いいっすね」


何やらハイライトの消えた目でブツブツ言っているレオン貧乳を放っておいて、ディアナ巨乳は銃を構える。

これが強者の余裕だ。


「......おっ、そうだ......折角だし言ってみよー。ジ・エンド終わりよ」


ドファン!と先程のマウザーよりも抑えた感じの発砲音が響く。そして、マネキンの腹部に大きく歪な風穴を開ける。


「おぉ......私はこっちの方が好きっすね......」


カチャリ、キーン。とコッキングした時に薬莢が地面に落ち、澄んだ音を鳴らす。

ドファン!カチャリ、キーン。という音が反復して何度も続き、一つのリズムを生み出していた。

レオンは、と言うと―――


「まだだ......まだ終わらんよ......そう、貧乳はステータスだ、希少価値だ......」


まだ落ち込んでいた。


「ん?なんすかこの弾?」


HEIAP弾と書かれた弾薬箱が目につく。


「撃ってみるっす!」


HEIAP弾。それは徹甲弾と榴弾と焼夷弾を混ぜた銃弾。本来は戦車など、大型兵器に対して使用する銃弾だ。

―――まあ、対物ライフルをその人形に対してバカスカ撃ってる時点で今更かもしれないが。

ともかく、その明らかに対人間用とは思えない銃弾と対物ライフルが合わさったなら結果は明確。

―――炎の華が咲いた。マネキンはディアナが即死攻撃ヘッドショットを狙い、直撃した銃弾により、頭は吹き飛び、断面を晒しながら体全体が炎に包まれた。


「はー......めっちゃ楽しいっすね......」


弾の残っている限り再び撃ちまくる。


「うえええええええええええええええええええええええええええええい!!!!」


ドファン、カチャリ、キーン。再び何度も何度ももはや焚き火と化したマネキンに撃ちまくる。


「はー......いいっすね......これ」


ひと仕事やり終えたかのように手の甲で汗を拭う仕草をする。

大艦巨砲主義に目覚めたようだ。

そして、ふと、大きめのショットガンのような銃が目につく。


「これ、なんすか?」


「......貧乳は見た目から貧乳とは観測出来ない。そう、実際に隠れ巨乳という言葉があるように観測しなければボクが貧乳という事実が証明されることはないのだ」


「撃つっすよー」


カチリと引き金を引くと―――


「!」


ドンッ!という音と共に次に的にしていたスイカが粉々に弾け飛び、先程とは比べものにならない衝撃が襲う。

と言っても上体が軽く揺れる程度だが。


「あー......スイカ後で食べようとおもったんすけどね......」


「と言っても905口径を片手で撃ってその程度なのは明らかにおかしい」


実はディアナは今まで銃を全て片手で構えていた。それで反動をほぼ全て無視しているのだから恐ろしい。

立ち直ったレオンが突っ込みをいれる。


「905口径って......世界最大の銃っすよね?」


「うん。そうだね。アメリカにおじいちゃんが旅行行った時におじいちゃんからお土産として貰ったよ」


「レオンのおじいちゃんって何者なんすか!?」


「う〜ん......『バイト』を紹介してくれたり、メロンパンとか銃とかくれたりする優しい普通のおじいちゃんだよ。あ、落とし玉は実際落とし弾だけども」


弾丸の経費が安く済むと笑うレオン。


「銃くれる時点でもう普通とはかけ離れてると思うっす」


規格外の邪龍の久しぶりなマトモな突っ込みであった。


「あ、そういやこの銃みたいに対物ライフル以外もあるんすか?」


「もちろん。というか『バイト』の都合上対物ライフルよりかも他の銃とか武器とかの方が多いかな」


「じゃあ、ハンドガンで!結構な割合でラノベの主人公も片手に持って戦ってたりメイン武器として使ってたりするっす!」


「うん!わかるわかる!ハンドガンはカッコイイよね!正直大きなハンドガンはロマンだよ!ボクには扱いがちょっと難しいけどね!特にM500とか、ホントにカッコイイと思うんだ!でも、奇銃になっちゃうけどコリブリとかもめちゃくちゃ小さくて可愛いと思うんだ!あー、ストラップにしちゃダメかな!?」


「お......おおぅ」


レオンの想像以上のハンドガン熱にビビるディアナ。


「そ、そうっす!デザートイーグル!デザートイーグルって銃もデカくて反動も大きいんじゃないすか!?」


「デザートイーグルはね、うん!確かにカッコイイね!大口径マグナム拳銃として名を馳せ、自動拳銃の中では最も大きな威力を持つんだけども、実は映画の影響かわかんないけど反動は実際はそんなに大きくないんだ。肩の骨が外れたり衝撃で銃を取り落としたりとそんな表現が見られるけど正しい姿勢で撃てばボクだって片手でも撃てるよ」


すっと何処からともなく黒いデザートイーグルを取り出す。


「おぉ......これが......!」


「まあ、実際は反動大きいし、精度もあまり高くない上に銃本体が重くて大きいからあんまり『バイト』では使わないんだけどね」


「そんなのロマンの前では些細な問題っす!」


「それもそうだけどね!で、撃って見る?」


「もちろんっす!」


そして、ディアナはデザートイーグル二丁拳銃になった。


「......まあ、文句はないけどさ。君のとんでもスペックなら二丁拳銃だろうが対物ライフル二丁持ちだろうが楽にできるだろうけどさ......。君はとことんロマンを突き詰めるね......」


「何言ってんすか!銃と言ったらデカくて高威力!そして、拳銃なら二丁持ち!それが常識っすよ!」


「いや、何の常識だい?」


「何はともあれ撃つっすよー」


「あ、はい」


コスプレにハマったのか今度は赤コートの某デビルハンターのようなコスプレをしている。レオンの衝動買いの影響でこのようなコスプレはいくつもある。

目を輝かせながら拳銃を映画でありそうなポーズで構える。

そして―――発砲。

バゴォッ、という音と同時に2発発射された.50AE弾。それは的にしている鉄板に当たり、それを容易に貫く。

鉄板には等間隔に二つの穴が空いた。


「 知 っ て た 」


「二丁拳銃って言ったらこれやりたいっすよね!」


二丁を再び構え、連射。


バゴッバゴッバゴッ......とマガジン内の7発の弾、合計14発が全て撃ち終わった後、鉄板にはハート型が出来ていた。


「銃......初心者......だよね?」


「今日触ったのが初めてっすね」


「ボクより上手くない?」


「邪龍っすから」


「そう......か......邪龍って何なんだろうね」


「龍の中でもチートスペックの龍っすね」


「いいなー......龍」


「じゃ、じゃあ次の銃に行きましょー!」


「ハッ!?トリップしてた!」


並々ならぬレオンの負のオーラを感じ、早々に話題を変えるディアナ。


「ハンドガンのさっき言ってたコリブリってなんなんっすか?」


「コリブリはね。世界最小の銃だよ」


「デリンジャーみたいな感じっすかね?」


デリンジャー、それは7.6cmの映画では女スパイ御用達の武器である。

その小ささから護身用に持たれることも多かったとか。


「いや、そんなものじゃない。コリブリはね―――4cmなんだ。」


「ちっさ!?」


「見ての通りめちゃくちゃ小さい。だからこれ作ったのはね、銃職人じゃなくて時計職人なんだ」


レオンのポケットから出てきたのはデリンジャーよりもはるかに小さい銃。


「はえー......これ、殺傷能力あるんすか......?」


「松の板を数センチ程度なら貫けるよ」


「もうそれ頭に撃っても殺せるか怪しいんじゃないすか?」


「そうだね。それにコストの面でいってもこの銃は弾薬一発で7000円近くするからね。正直ただの収集用かな。でも、可愛いよね?」


「まぁ......確かにちょっと可愛いっすけど......」


「そうだろうそうだろう!思わずキーホルダーにしたくなるだろう?コリブリ程度のサイズならバレないと思うんだけどなぁ......最悪護身用にも使えないことは無いし」


「だけど?」


「おじいちゃんが絶対やめろって言うんだ......」


「おじいちゃん変なとこで常識的っすね」


「いや、付けるならせめて爆発物にしろって......」


「前言撤回っす。レオンのおじいちゃんは自分の孫に自爆テロでもさせるつもりなんすかね」


「いや......手榴弾も悪くは無いんだけども......やっぱり付けるなら銃の方がいいんだよね」


「感性がわからないっす」


「えぇ!?可愛いだろう!?M67とかマークIIとか!リンゴとパイナップルの形だよ!?」


「無理っす。中身が火薬でぎっしりなストラップとかマジで勘弁っす」


「『イタリアの赤い悪魔OTO M35型手榴弾』じゃないんだからそんなちょっとやそっとじゃ爆発しないよ」


「それ以前の問題にポリスメンがやって来るっす」


「大丈夫。まず本物だって思う人はいないから」


「......」


正論ではある。まず、誰がスクールバッグに本物の手榴弾を付ける女子高生がいると思うのか。


「で、コリブリは流石に無理だけど、手榴弾投げる?」


「いや、流石にそろそろ良いっす。というかもうお昼時っすよ!ご飯食べに行きましょーよ!」


「おっと、時間が経つのは早いね。じゃあ最近出来たパン屋さんでも行かないかい?」


「いいっすね!......目当てはメロンパンっすか?」


「もちろん。それ以外に何があるって言うんだい?」


「この世界に来てからメロンパンって食べたことないんすよねー......」


「それはいけない。人生というか龍生損してるよ。ふふ、ボクが魅力をパン屋さんに行きながら語ってあげよう」


「お願いするっす!」


また長くなるんだろうな。と思いながらも貴重な人間の友人との会話を楽しむディアナ邪龍だった。


















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皐月レオンの日常 くまもんち @kumamonti

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