だから、今日も私はうそをつく

隅田 天美

もう、真実は言わない

 私が親に嘘をついたのは小学低学年の頃。

 毎日虐められて親に相談したが、親が「またか……」という表情で私の話を真剣に聞いてくれなかった。

 聞いたとして言う言葉は常にこれ。

「お前が悪ければいいんだ」

 ある日。

 また、虐められた。

「また……」

 見捨てられると思った。

 その瞬間、私の口から出たのは嘘だった。

「今日、友達と遊んだ」

 親は大層喜んだ。

 その日から、毎日私は虐められていたことを隠し、私は必死で嘘をついた。

 親に喜んでほしかった。

 見捨てられるのが恐怖だった。

 それはだんだん、周りにも波及した。

 親以外、教師や同級生にも嘘をついた。

 笑える嘘だ。

 そのために私はあらゆる努力をした。

(それでもいじめや差別はなくなかったけど)

 だが、ある時。

 親が言った。

「何で嘘をつくの?」

 私はようやく、虐めのことが言えると思った。

 ところが、喉で言葉が詰まってしまう。

――見捨てられる

――殺される

 そして、言われるのだ。

「お前が悪い」


 結果が分かり切っているのに冒険をする勇気は私にはない。

『私』という汚物が『みんな』というものと混ざるには嘘は必須だ。

 もしも、『私』を知ったら、せっかくできた繋がりがなくなってしまう。

 何もない私から『繋がり』を消せば本当に無意味な存在になる。


 だから、私は今日もみんなを笑顔にするために、見捨てられないために笑顔で嘘をつく。

 その裏で泣いている自分を何千人と殺しながら……


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だから、今日も私はうそをつく 隅田 天美 @sumida-amami

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