第138話 豹変
部屋で休んでいるはずの存在の登場に、ジェネラルは弾かれたように扉の方へ走り寄った。その表情は、険しい。
「ミディ、こんなところで何をしてるんだよ! まだ休んでないと駄目じゃないか!」
「寝てるだけじゃ、何だか落ち着かなくて。それにほら、ちょっと休んだら体調も落ち着いてきたし」
少し怒った表情を向けるジェネラルに、ミディは大丈夫だと言わんばかりに少し胸を張り、彼の言葉に答える。
そしてまだ不満そうな魔王を押しのけると、部屋に入ってきた。
「で、何か見つかった? と聞きたいのだけれど、まああなたたちの様子を見ていたら……、何となく答えが想像出来るわね」
「まあ、お察しの通りだよ、ミディ姉」
疲れた表情を向け、シンクが両手を広げて目の前の惨状を示す。
散財漁ってぶちまけられた本、そして荒らされた机。
収納という収納は全て開かれ、その場所にしまわれていた物が、元に戻ることなく散乱している。
そして3人のこの疲れた表情。
ミディが成果を聞く気が起きなかったのも、納得がいく。
王女は、足の踏み場もない程散乱した荷物を器用によけると、中身のなくなった棚を見ながら、机のほうに寄って行った。
ふと彼女の視線に、卓上の荷物の山の頂上に置かれた白い物が映る。
「これは……、手紙?」
「いや、ハンカチだ」
四角く白ければ、遠目から見ればメモや手紙と見間違えても、仕方ないだろう。
自分たちがハンカチを見つけた時と同じ反応をするミディに、アクノリッジがつまらなさそうに答えた。
ふーんと興味なさそうに、ミディはハンカチを手に取ると、何気なく畳まれていたそれを開いた。
ハンカチについているエルザ王家の紋章、そして薄く残る茶色の染みが彼女の視線を捕えた時、ミディの顔が真っ青になった。
「……嘘……。これは……」
まだ血の気の戻らない唇から、震える声で発された言葉を、3人は聞き洩らさなかった。只ならぬ言葉の様子に、皆が王女の傍に寄る。
ミディは、驚愕の表情を浮かべたまま、ただハンカチを見ていた。驚きの為か、呼吸が次第に早いものになっていく。
その美しい顔に血の気がなく、ハンカチを持つ手は小刻みに震えていた。
「ミディ! このハンカチがどうしたの!? ミディは、このハンカチの事を知ってるの!?」
ジェネラルが、ミディの肩を揺すって彼女に回答を求める。しかし、ミディは答えない。ただハンカチに視線を逸らせないまま、
「嘘……よ……。あの人が……。あの人が……」
と、何度も呟いている。精神的動揺が大きすぎる為か、呼吸が浅く、さらに早くなっているのが傍から見ても分かった。
ミディの突然の変化に、誰もが戸惑いを隠せずにいた。
そんな3人の気持ちにも気づかず、ミディは視線をハンカチから外すと、自分に言い聞かせるように呟いた。
「確かめ……ないと」
「ミディ!! 待って!!」
ハンカチを握ったまま部屋を飛び出したミディに、ジェネラルが制止の声を掛けた。しかし、それは全く無意味だった。
精神的動揺、そしてボロアの葉による体への負担の為か、ミディの動きにいつものキレはない。見ているのが不安なくらいおぼつかない足取りで、廊下を走っていくのが見える。
突然の豹変。
何かを確かめる為、飛び出したミディ。
“一体、ミディは何を確かめるつもりなんだ!?”
嫌な予感だけが、ジェネラルの心を満たし侵食する。
事情は全く分からない。
今はただ、ミディの後を追うしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます