第137話 調査3

 シンクが手に持っていた最後の本を、ぽいっと投げ捨て、全ての本のチェックが終わった。

 しかし、全く証拠は出てこなかった。もちろん、本棚もひっくり返したが、隠し金庫が見つかるわけでもなかった。


 腰に手を置き、すっかり滅茶苦茶になった部屋を見回しながら、ジェネラルは強張った体を伸ばした。


「後は、この机だけですね……」


 綺麗に整頓されている机に視線を向ける。

 机の上には、数冊の分厚い本が並べられ、すぐに使えるようにとペンセットが置かれただけで、それ以外は何も置いていない。

 使っていた者の性格が分かる綺麗さだ。


 三人は、床に散らばっている本を避けながら、机を囲んだ。


「んじゃ、最後の捜索、頑張るか……」


 ため息混じりに声を出すと、アクノリッジは引き出しに手をかけた。

 いくつか鍵がかけてあったが、ジェネラルの力で解除する。


 しかし出てくるのは、証明印や文房具、綺麗にまとめられた文書の綴りなど、差しさわりのない物ばかりだ。

 今回の反逆の証拠として重要そうな物は、何一つ見つからなかった。


 机の上には、引き出しに入っていたものがどんどん出され、山を作っていく。

 しばらく漁っていると。


「あれ? これは……」


「どうした、ジェネラル?」


 魔王が上げた声に反応し、シンクが尋ねた。

 ジェネラルは二人を手招きすると、自分が発見したものを見せた。


 引き出しが取り除かれたスペースの奥に、何か白い物が落ちているのを発見したのだ。

 手紙か何かかと思われるそれを、シンクは腕を突っ込み取り出した。


「……何だこれ?」


 シンクが気の抜けた声を上げた。


 少年の手に握られていたのは、1枚の白いハンカチだった。


 書類か何かだと思っていた三人は、拍子抜けした様子で、お互いの顔を見る。

 シンクは、兄と魔王の前でハンカチを広げた。


「……どう見たって、ハンカチだよな……」


「まあそれを見て、書類という奴はいねえよ……」


 弟の問いに、アクノリッジが突っ込む。

 シンクは、ひらひらとハンカチを裏返しにしたりしながら、何か重要な証拠が見つかるかと視線を向けている。


「にしても、可愛いハンカチですね……。これって、女性物じゃないですか?」


 四方に見えるレースに視線を向け、不思議そうにジェネラルが口を開いた。

 男性であるメディアが、女性物のハンカチを持っている事に、疑問を抱いているのだろう。


「ん?」


 その時、アクノリッジがハンカチの端を見て声を上げた。

 ハンカチの角を摘み、確かめるように自分に近づける。


「これは……、エルザ王家の紋章? 後、この染みは……、汚れか?」


 アクノリッジが言うように、ハンカチの角にはエルザ王家の紋章が刺繍されていた。しかしこの部分だけが真っ白ではなく、少し茶色く変色している。


 汚れがつき洗ったのだが、落ちなかったのだろう。それが乾いて染みになってしまったのだ。

 普通なら、処分してしまう代物だ。


「何でこんなハンカチ、メディアの机の中に入ってんだ?」


「……さあな。何かの荷物に紛れていたんじゃね?」


 大したものではないと結論付けた二人は、ぽんっと荷物の山の上にハンカチを放り投げた。

 

「あ~~……、やっぱり何にもなかったなあ」


 苛立ちに髪をかき上げ、アクノリッジは諦めた様子で、ソファーに音を立てて倒れこんだ。

 シンクもジェネラルも、同じ思いのようだ。

 同意するように、無言でシンクは頷き、散らかった部屋を見回すと、大きく伸びをした。


「あいつがそう簡単に証拠を残すとは思ってなかったけど、ここまで徹底的にやってるとはなあ……。あいつの口を割らせるしか、方法はねえか」


 ソファーの肘当てに両足を乗せ、アクノリッジがぼやく。一気に疲れが出たのか、うっすらと目の下にクマが見えた。

 

 結局、メディアの部屋からは、何も見つからなかった。だが彼の自宅や、よく彼が出入りしていた場所などの捜索が残っている。明日からは、今日以上に大変になるだろう。


「まあとりあえず、今日はひとまず終わろうぜ……」


 やるべき事はやったし、と付け加え、アクノリッジはソファーから起き上がった。目を擦り、大きく欠伸をする。

 その時。


「凄いことになってるわね……」


 半分呆れた女性の声が、部屋に響き渡った。

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