第111話 強さ2

 男の手が、ミディを掴んだ……と思われた時、


「お前達、一体何をしている!?」


「うっ!」


 ミディの横から男の声が聞こえたかと思うと、巨体が横に倒れた。物凄い音を立て、近くにあった木箱にぶつかる。

 巨漢は動かない。どうやらぶつかった衝撃で、気絶したようだ。

 他の二人が驚き、慌てて巨漢に駆け寄った。


 ミディは、自分の体を抱きながら、ゆっくりと声がした方向を見た。

 

 そこには、マントに身を包んだ者が立っていた。

 フードを被って顔を隠しているが、背の高さと声の調子から男性だという事は分かる。


「てめえ、何しやがる!!」


 不意に現れた敵に、男たちは殺気立った。

 男たちの怒鳴り声に、ミディは震え上がったが、マントの男は動じず、相手を馬鹿にした口調で男たちを挑発する。

 

「何しやがる? その図体がでかいだけの馬鹿を、蹴り倒しただけだが? 誰が見ても分かると思うが、そんな事も分からない程、お前達馬鹿なのか?」


「貴様……!」


「そんな少女に手を出そうとするなど、お前達よほど欲求不満なんだな。…ああそうか、女たちに相手されないからか」


 マントの男は、怒りで真っ赤になった男たちの顔を見、鼻で笑った。

 キレた男たちは、手に凶器を持ってマントの男に襲い掛かった。


 マントの男は、難なく男たちを避けると、手ごろな大きさの木箱を投げつけた。


 襲い掛かった男たちは、顔を庇おうと両手を上げた時、マントの男が帽子の男の腹を蹴り上げた。

 帽子の男は腹を抱えてしゃがみこむと、マントの男が容赦なく帽子の男の首の後ろに手刀を打ちつけた。


 情けない声を出し、帽子野郎は白目を剥いて気絶した。


「てめえ!」

 

 仲間の復讐とばかりに、バンダナ男がマントの男に襲いかかる。

 マントの男は特に焦った様子もなく、バンダナ男の攻撃を避けた。


“凄い……”


 強く自分の肩を抱きながら、ミディは戦いを食い入るように見ていた。

 肩を掴む指に、力が入る。


 その時、


「くそう……、野郎、舐めやがって……」


 真っ先に蹴りを食らって吹っ飛ばされた巨漢が、ゆっくりと起き上がった。手には、刃あたりが大人の手のひら程あるナイフが、握られている。


 奴のギラギラした目から、怒りに我を忘れている事が分かる。


 ミディは、慌ててマントの男に視線を向けた。


 男は、巨体が動き出した事に気が付いていない様子で、バンダナを相手している。


“あの人、気づいていない……。今、叫んだら、バンダナの男に隙を作ってしまう……、どうしたら……”


 巨体の男はゆっくりとだが確実に、マントの男に近づいている。


“声を出したい。でも出せない。助けたい。だけどどうしたら……”


 巨漢とマントの男を見比べ、必死で考えるミディ。

 その時、ミディの中で、何かが弾けた。




 ――――強くなりなさい、ミディローズ。




 足の振るえを抑えながら、ミディはゆっくりと立ち上がった。

 今、ミディの頭の中には、四大精霊に与えられた知識が回っている。


 ほんのり赤く色づく小さな唇が、四大精霊への願いを請う。


「四大精霊の名の下に……」


 ミディは、小さな指を巨漢に向けた。

 指先が細かく震えているが、視線は真っ直ぐ巨漢を見据える。


 小さな体に、今まで感じた事のない高ぶりを感じた。

 肌に触れる空気から、地を踏む両足から、体に流れる血潮から、そして胸に宿る命の炎から、力が溢れ、指先に集まるのが分かる。


「破滅よ来たれ!!」

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