第112話 強さ3
白い光がミディの指先に灯ったかと思うと、マントの男が蹴り飛ばした以上の衝撃が、巨体を襲った。
吹き飛んだ巨体は、マントとバンダナの男たちの戦いに突っ込んだ。
マントの男は危険を察し、素早くその場から身を引いた。が、バンダナの男は、吹っ飛んできた男の巻き添えを食い、共に壁に激突した。
吹き飛ばされた二人は、バンダナが巨漢の下敷きになる形で気絶した。
静寂が戻った。
マントの男は、何が起こったのか分からない様子で、壁にぶつかり気絶した男たちを見ていたが、すぐにミディに視線を向けた。
ミディは指を指した状態で、立っていた。
自分でも、何が起こったのか分からなかった。
ただ一つ分かる事。
それは四大精霊が、彼女の願いに答えたという事。
「お前、一体……」
マントの男が、恐る恐るミディに問いかける。
彼の言葉に正気を取り戻したミディは、腕を下げると、マントの男を見た。
「あっ……」
ミディは、マントの男が左腕に怪我をしているのを発見した。
凶器が掠ったのだろう。服が裂け、血が流れ出しているのが見えた。
男も怪我に気が付いたのだろう。小さく舌打ちすると、傷の状態を見る。
「傷見せて!」
いつの間にか近づいていたミディが、男の腕を取った。
コートから、可愛らしいレースのついたハンカチを取り出すと、傷に当てた。ハンカチが血を吸い、小さく刺繍されたエルザ王家の紋章が、見る見るうちに赤く染まっていく。
「お前、何して……」
男は驚き、腕を振りほどこうとしたが、
「ステータスの力よ、熱き血潮に水の癒しを……」
彼女が呟くと、ハンカチで傷を押さえた小さな手から、光が放たれたのだ。
光が消えた時、ミディはゆっくりとハンカチを離した。
しかし、
「上手くいってない……。まだ私が……力を使いこなせてないから?」
悔しそうに、ミディは呟いた。血は止まり、傷には薄い膜がかかっていたが、完全に癒せたわけではなかった。
しかし男は非現実な光景に、言葉を失っているようだ。一瞬にして塞がった傷に触れ、確かめている。
ミディは、
「まだ、完全に治ってないから……」
と言い、再びハンカチを傷の上に置くと、男の手を取って傷を押さえさせた。
男が口を開いたが、言葉を発するのはミディの方が早かった。
「危険な所、助けて頂いてありがとうございました! 私の為に傷ついて、本当にごめんなさい……」
「お前は……」
「私、もう帰らないと……。抜け出した事、皆にばれると大変だから。本当に、ありがとうございました!」
ミディは、勢いよく頭を下げると、逃げるようにその場を立ち去った。
王女が走り出したとき、風が吹き、彼女のフードが脱げた。
幼いながらも美しい顔が、露になる。
あっという表情で、ミディは慌ててフードを押さえ、すぐに被りなおした。
「おっ、おい、ちょっと……」
男が呼び止める声がしたが、ミディは立ち止まらなかった。
息を切らし、ミディは夜道を走った。目の前には、彼女が住むエルザ城が見えてきた。
城を出た時、これから四大精霊に会う緊張と、予言への不安に、暗い顔をしながら歩いた道だったが、今は違う。
“あれなんだ……。私が必要とされている強さは……、あの男性と同じ、戦う強さだ!”
今まで悩んでいた気持ちが晴れ、少女の瞳に明るさが戻っていた。
これからすべき事、頭の中で考えるミディの口元には、笑みが浮かんでいた。
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