第106話 本心2
「あの……、それで話を戻しますけど、僕に出来る事ありますか?」
今は、二人の野望をどうこう言っている暇はない。
彼らに野望を忘れさせるという意味も込め、ジェネラルは話を戻した。
この言葉に、二人の表情から笑いが消えた。
「とりあえずしばらくは、ここにいてくれ。お前は国中で手配されているから、今は外に出すわけにもいかねえしな」
アクノリッジの言葉に、申し訳なさそうに、ジェネラルは顔を伏せた。
自分が今、追われている身だと思い出したからだ。
落ち込むジェネラルを、シンクは安心させるように、
「大丈夫だって、ジェネラル。あいつらも、ここにはそう簡単に手を出せないはずだからさ」
と、笑った。
シンクの気遣いに感謝しながら、ジェネラルは小さく頷く。
自分の椅子に戻ったアクノリッジは、頬杖を付きながら、テーブルに視線を落とした。
「……エルザ王や王妃の事も気になるな。エルザ王が病気で、王妃が別邸で養生している以外は、何も情報がねえからな。まあ、あの野郎が絡んでるのは間違いないだろうが」
「って事は、もしかして殺されてる可能性があるって事か!?」
その言葉から最悪の事態を想像したシンクが、兄に詰め寄った。
弟の叫びに近い問いかけに、アクノリッジは黙って首を横に振る。
「いや、まだ生きているだろう。監禁されているか、ミディみたいに薬漬けにされているか、どちらだろうな。メディアは事を大きくせず、計画を進めているみたいだから、すぐに王や王妃を殺すという事はしないだろう」
とにかく情報を得ないと、とアクノリッジはぼやいた。
その時。
「……事を大きくせず……」
「ジェネラル、どうした?」
少し俯いた魔王の呟きがシンクの耳に入ったようだ。何を考えているのかと、ジェネラルに問う。
魔王は、顔を上げて少し心配そうに二人を見た。何か、嫌な事に気づいたらしい。
「ミディの親友であるお二人の事を、メディアさんが忘れているわけがないと思うんです。もしお二人がメディアさんの陰謀を探ろうと動いた場合に備えて、お二人に罠を張っているんじゃないかと……。」
メディアが、この兄弟の事を忘れているわけがない。しかし、モジュール家は強い力を持っている為、そう簡単に手を出せない。
だから、相手が動き出し、捕らえる事が出来る機会を狙っている。
メディアの身辺や城内について探っている証拠が得られれば、すぐにでもエルザ王家に対する謀反だとかそういう架空の理由を付け、モジュール家を潰しにかかるだろう。
ジェネラルは、そう考えていた。
もちろん、アクノリッジもシンクも気づいていなかったわけではない。
「俺達だって、それは分かっている。しかし、このままメディアの目を恐れ、動かないわけにはいかねえんだよ」
シンクは覚悟を決めた強い視線を、ジェネラルに向ける。
彼の視線を受け止めながら、ジェネラルは首を横に振った。
「いや、僕が言いたいのは、エルザ王家の力の及ばない者たちが、表立って動けばいいって事ですよ」
「エルザ王家の力の及ばない者たち? そんなの、どこにいるんだよ。この大陸中、権力に縛られてないやつは……」
ここまで口にし、シンクは言葉を飲み込んだ。
目の前にいるジェネラルに、視線を向ける。
シンクの考えが、正しい事を肯定するように、魔王はにっこりと笑った。
笑みを浮かべるジェネラルとは正反対の表情を浮かべ、アクノリッジは口を開いた。
「ジェネラル、お前何を言ってるのか、分かってるのか?」
「分かってますよ、アクノリッジさん。魔王や魔族は、プロトコルでは悪者って思われてますからね。まあ不本意ではありますけど」
少し寂しそうな光を瞳に宿し、ジェネラルは笑った。そして脳裏に、悪の魔王を想像して魔界にやって来た、ミディの姿を思い出した。
あの時は迷惑でしかなかったが、あの迷惑さも今はただただ懐かしい。
しばらく、兄弟は考えているようだった。
そして、
「ジェネラル、俺達はお前を初めて見た時から、そして魔王と知ってからも、1度もお前を悪者だって思ったことはないぜ」
口元に笑みを浮かべ、アクノリッジは言った。
それが、答えだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます