第107話 檻
ミディは、薄暗く広い場所にいた。
先に行くほど暗くなっている為、ここが一体どのくらいの広さを持っているのか、予測できない。
果てしなく続くとまで錯覚を覚えそうなこの場所には、何もなかった。
ただ、不自然に放置されている檻以外は……。
檻には、一人の少女が入っていた。
体を丸め、膝に顔を埋めている。
「……何故、こんな場所にいるの?」
檻の前に来ると、ミディは少女に声をかけた。
少女は、ゆっくりと顔を上げる。
肩で切りそろえられた青い髪が、艶を放ちながら流れる。
「出られないの」
そう言って顔を上げ、真っ先に飛び込んできたのは、青い瞳。
幼いながらも、人が知りうる美しさを遥かに凌駕する、その美貌。
少女は、ミディそっくりだったのだ。
しかし、ミディは驚かない。まるで、驚きという感情を忘れたかのように、何も感じないのだ。
檻には鍵がついてない。見るからには、扉を押せばすぐに外に出られそうだ。
しかし少女は力いっぱい檻を押し、扉が開かない事を証明する。
どうしてと言いたげに、ミディは首を傾げた。
少女は、薄く笑った。
「でもこの檻は、あらゆる事から私を守ってくれる。狭くて窮屈だけど、それ以上の苦痛はない」
子供とは思えない言葉。
ミディは、何も言わないかった。ただ黙って、少女を見つめる。
少女の視線が、ミディから逸らされた。
彼女の視線を追って、ミディもそちらに顔を向ける。
そこには少し大きめの檻が、扉を開いた状態で置かれていた。
檻の中の少女は、再びミディに視線を向けると、愛らしい笑顔を浮かべて言った。
「あなたも、入る?」
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