第10話 修行
「で、ミディ。これからどうするの?」
休憩と昼食を終え、再び焚き火に当たりながらジェネラルは尋ねた。寒いから、もうちょっとここに居たいなあ~、とボソッと付け加える。
が、彼の意見が通るほど、この女は甘くない。
「早速修行に入るわよ! まずは、その弱そうな話し方をどうにかしないとね。さっ、この台に乗りなさい!」
「こっ、この箱に……?」
兜を被ったミディが指差したのは、『毎日元気 ベンド産干しニンジン』と書かれた木箱だった。
何をするのかと思いつつ箱に乗るジェネラル。
素直に従うジェネラルを満足そうに見ると、ミディは彼の背中をポンっと叩き、とんでもない事を指示した。
「じゃ、そこでこの町を制圧すると宣言しなさい。魔王らしく」
「えええ―――!!」
基礎をすっ飛ばした突然の実践編に、ジェネラルは抗議の声を上げた。しかし、ミディには通用しない。
「このくらいの町で出来なければ、プロトコル全体に宣戦布告するなんて出来ないわよ!」
「いやいや!! そもそも宣戦布告なんてしないし!! それに制圧の宣言なんて、恥ずかしい事出来ないよ!!」
頑張って抵抗してみるが、逆らったらどうなるか分かってるわよね……というオーラを兜の下から感じ、ジェネラルは言葉を飲み込んだ。表情は分からないが、物凄い迫力だ。
“どうして僕がこんな目に……”
ジェネラルは、周りの人々に救いを求めるように、周りを見回した。
しかし、ちらりと彼の方を見る人は多いが、声を掛けたりミディに注意をしたりする者はいない。
それどころか、まるで微笑ましいとばかりに、ニコニコと笑って通り過ぎていく人もいる。
きっと芸人たちの一人と思われており、これから何かを披露しようとしているとでも思われているのだろう。
周りの救いはない。
半泣きになりながらも、仕方なく彼は口を開いた。
「こっ、この町は僕が、せっ、制圧したぁ~」
「声が小さい、もっと大きな声で!」
「この町は僕が……」
「お腹の底から声を出しなさい!」
「こっ、この町は……」
「どもらない! 自信を持って!」
「ううう……」
「泣かないの!!!」
木箱の上で、半べそをかく少年に、一喝するミディ。
情けない声を出す魔王を見ながら、ミディは肩を落とした。之ほどヘボだとは……、という思いが顔に現れている。
ミディは大きなため息をついて言った。
「全く、仕方ないわね……。じゃあ見本を見せてあげるから、しっかり見て勉強するのよ?」
王女の気持ちとは反対に、最悪の事態を回避出来、ジェネラルはホッと胸をなでおろした。そして喜々として木箱から降りる。
その変わり身の早さは、先ほどまでべそをかいていたとは思えないほどだ。
箱から降りた少年に変わり、ミディが木箱の上に乗った。
元々背が高いため、下から見上げるジェネラルにとって、なかなか迫力ある風景である。
一つ深呼吸すると、その辺の屋台や芸人達の声を吹き飛ばしてしまう程の大音声で叫んだ。
「わはははははは! 愚かな人間どもよ!! 今日からこの町は、魔王である私が支配する。逆らう者は、皆殺しだ!! ……で、ここで『アディズの瞳』を使ってどこかの山でも破壊して、魔王の力をアピールするのよ」
「おおー!! 凄いね!! もう、誰がどこから見ても『悪者』って感じだね!!」
これぞ悪にふさわしい、と思わずにはいられない迫力に、ジェネラルは思わず拍手した。そしておかわりを要求する。
「もう一回、もう一回!!」
「仕方ないわね……」
いきなり元気を取り戻したジェネラルに呆れながらも、ミディは何か思いついたらしく、少し楽しそうな口調で提案する。
「それじゃあ、今度は魔王と勇者の対峙場面を練習するわ。魔王はとりあえず、見本で私がやるから勇者の台詞は……、かっこよく言ってよ?」
「うんうん!!」
勇者という言葉に、ジェネラルの瞳が輝く。
やはりやるなら、悪役よりも勇者の方がいいに決まっている。
彼の快い返事に一つ頷いて答えると、ミディは木箱に乗らず前を向いた。
こうして修行という名のミディ劇場が開幕したのである。
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