第6話 証
エクスが、侵入者を排除すべく、飛びかかった。
しかしミディは余裕の表情を浮かべ、エクスの攻撃をよけると、彼の後ろに回り剣を振り下ろす。
だがエクスも負けてはいない。長く伸びた爪がミディの剣をはじき返した。
素早く体制を整えるミディ。しかし魔族の青年が呪文を唱え終える方が早かった。
床に散らばった破片が、ミディに襲い掛かる。
しかしミディは逃げず、剣を持たない手を前に突き出し叫んだ。
「オムニの力よ! 集まり我が壁となれ!」
四大精霊――風を司るオムニの力がミディの周りに集まる。
そして、襲い掛かってきた残骸を弾き飛ばすと、ふっと空気に混じり消えた。
小さく舌打ちをし、今度はエクス自身がミディに向かう。
向かってくるエクスに立ち向かうと、ミディも剣を構え直し駆け出した。
二人がぶつかり合うと思われた瞬間。
「もう止めて、二人とも!!」
少年の叫びと共に、二人の間に天井まで届く程の真っ赤な炎が横切った。
突然の事に、足を止める二人。
さらに黒い霧のような物が二人の体に巻きついたかと思うと、無理やり二人を引き離した。地面に付くぎりぎりで速度を落とし、ゆっくりと衝撃なく二人の体を下ろす。
丁度二人の間にいるのは、
「じぇっ、ジェネラル様……?」
只ならぬ様子を感じ、エクスが小さく名を呼ぶ。
そこには、左手を突き出した格好で二人を見ているジェネラルの姿があった。
表情は厳しく、二人を睨んでいる。
「エクス! 彼女はこんなのだけど人間さんで、わざわざ僕に会いに来たんだよ! そしてミディ、僕とこの部屋の事はいいけど、エクスに怪我させたは事は、ちゃんと謝って!」
「しかしジェネラル様、この者は!」
「いいから戦いはやめて!」
普段温厚な少年が見せる厳しい言葉に、エクスは開きかけた口を閉じ、爪を元に戻すと、黙ってミディに頭を下げた。しかしその表情には、納得がいかない気持ちが現れている。
ミディにはジェネラルの言葉もエクスの謝罪も耳に入っていなかった。
ただ一点、ジェネラルの左手を見つめている。
手の平の中央に埋め込まれた、透明に近い青い宝石を。
『アディズの瞳』―—魔王の証たる、強大な魔力の結晶。
一度も見たことはないのに、美しい宝石にしか見えないのに、ミディにはすぐに分かった。
勘ではない。自分の魔法の根源が、それが魔王の証だと伝えている。
魔王の証である『アディズの瞳』を持つ少年。
つまり。
「あなた……、魔王……なの?」
「えっ? さっきから言ってるじゃないですか……」
何度も言ってるのに何をいまさら、と言わんばかりにジェネラルが答える。
ミディは彼の返事に答えず、ゆっくりとジェネラルに近づいた。そして、いきなり彼の細い両肩を力一杯掴んだ。
部屋に響き渡るミディの叫び。
「何で……、何で『ようこそ、魔界へ』って歓迎されなきゃいけないのよ!!」
甲高い叫び声が、ジェネラルとエクスの鼓膜を突き刺す。
あまりの大きさに、二人は思わず耳を塞いだ。
間近で叫ばれ、キンキンと痛む耳を抑えるジェネラルを余所に、今度はエクスに掴みかかるミディ。
「ねえ、おかしいと思わない? 魔王なのよ!? 何で私、歓迎されなきゃいけないの!? ねえ!!」
「そっ、そういわれても……」
「普通は、『わっはははは!! よくここまでたどり着いたな、誉めてやろう! だが、お前の命運もここまでだ!!』とかじゃないの!?」
「何を言って……。ここまで来るのに何ら支障はなかっただろう?『それに命運もここまでだ』って……、貴様、ジェネラル様に、何させようとしてるんだ……」
「……………」
真っ当な意見である。
しかしミディはエクスを放り投げると、びしっと音を立てそうな勢いで、ジェネラルを指差した。
いきなり指刺され、ジェネラルは反射的に背筋を伸ばした。
「あなたおかしいわ! 魔王として、全然なっていないわ!!」
「いや、おかしいのはそっちでしょう! いきなり襲撃してくるわ、魔王って言ってるのに信じないわ、信じたら信じたで魔王としてなってないとか一方的に!! 僕の命を狙ってきたのなら失敗ですから、もう帰って下さいよ!! 命までは取りませんから!」
「はぁ!? 命までは取りませんって、そんな軟な考えで魔王やっていけると思ってるの!?」
「今までずっとこの性格で魔王やってきましたが、何か問題でも!?」
「問題あるに決まってるでしょう!!!」
ミディは大きく息を吸って気持ちを落ち着けると、胸を張り、何一つ恥じる事無く、とんでもない事をいいのけた。
「さっさとプロトコルで暴れて、私を攫って、世界を救う勇者様に倒されてくれないと困るのよ!」
二人の目が点になる。
しばしの沈黙の後、ミディの言葉を理解したジェネラルが口を開いた。
「……あなた……ちゃんと……起きてマスカ?」
次の瞬間、ミディの力により、窓のあった壁が消滅したのであった……。
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