第5話 危機
間一髪、突如通り過ぎた銀色の筋をよけ、ジェネラルは叫んだ。
「って、何するんですかあああああ!!」
「何って、お・し・お・き。うふっ」
人差し指を頬に当て可愛らしい仕草で、ミディがこれまた可愛らしい声で答える。
ついでにジェネラルが言った『何』とは、高速で繰り出された剣技の事である。
こんな至近距離にいてジェネラルが避ける事が出来たのは、元々ミディが彼に当てるつもりがなかった為だろう。
ミディの心境がどうであれ、ジェネラルにとっては迷惑な行動でしかない。
暴走女から距離を取り、半壊している机の影に隠れながら、ジェネラルが抗議する。
「おしおきって、そんなことされる覚えないですよ!」
「君……。お姉さんが綺麗で優しいからって言っても、嘘をいっちゃ、だ・め・よ、ふふっ」
「破壊行為する優しいお姉さんなんて、聞いたことな……」
「口答えするなんて、お姉さん、とおっ―――ても、悲しいわ~」
片手を頬に当て、大げさに悲しさをアピールしているが、それ以上に背後から怒りのオーラが放たれている為、あまり意味をなしていない。
乗り越えるだけでも大変な瓦礫なのに、1度も足と取られることなく、ミディはジェネラルの前にやってきた。かなりの運動神経である。
そして両手を腰に当てると、仁王立ちになって彼を見下ろした。
「さあ、魔王はどこにいるのか、答えなさい」
「いや、だから……」
自分だと言い返したいのだが、ミディの迫力に押されて言い返せない。
剣を突きつけられる以上の怖さを感じる。
“恐らく次は……、ヤラレル!!”
これ以上言葉が出ず、心の中で悲鳴をあげたその時、
「なっ、何!?」
倒れた本棚の下が動いたかと思うと、その隙間から何かがミディの足首を掴んだ。
慌ててそれを振りほどくと、軽い身のこなしで瓦礫の山の上に移動するミディ。
「……重い!」
怒りに満ちた男性の声と、その後に続けられた謎の言葉が聞こえた瞬間、
ミディがいた瓦礫の山が吹き飛んだ。本棚などの破片と、紙の切れ端が舞い上がる。
吹き飛んだ瓦礫から出てきたのは、ミディに吹っ飛ばされ、ジェネラルにすら忘れられていたエクスだった。
彼もあの攻撃の直撃を免れたようではあるが、倒れてきた本棚の直撃は受けたようで、額から血を流しながらふらふらしている。
気力で立っているのだろう。
「エクス!!」
血を見たジェネラルが、慌ててエクスの側に駆け寄った。その顔は、彼を心配する為にゆがんでいる。エクスはジェネラルを見て、ほっとした表情を浮かべた。
「ジェネラル様、ご無事で何よりです……」
「僕の事なんていいんだよ! ごめんね、今までほったらかしにしてて……。早く手当てしないとっ!」
「いいえ、私の事は大丈夫です、ジェネラル様……。まずは目の前にいる『あれ』をどうにかしなければ……」
『あれ』とは、腕を組んで訝しげにエクスに視線を送っているミディの事である。
ジェネラルとは違い、初っ端から酷い目に合わされたエクスは、ミディの魅了に掛かっていないらしい。むしろ憎々しげに視線を送っている。
『あれ』呼ばわりされたミディは、不快そうに眉根を寄せた。
「女性を『あれ』呼ばわりするなんて、失礼ね。後言っておくけど、鎧が重いのであって私は重くないから!」
『あれ』と呼ばれた事よりも、後半の言葉の方が力の入れようが強い……気がする。
エクスは鼻で笑うと、
「理由もなく部屋を魔法で破壊する貴様など、『あれ』で十分だ。それに……、本当に軽いのなら、そんな細かい事を気にしないと思うがな」
確かに、失礼うんぬんの言葉、この女には言われたくない。ジェネラルも心の中で激しく同意する。
エクスの言葉-特に後半の言葉に、ミディの頬が引きつったように見えた。
図星だったらしい。
2人の間に流れる空気が、一気に冷たいものへと変わった。
「私に対してその言葉……。いい度胸してるわね!」
「それはこちらの台詞だ。恐れ多くもジェネラル様を襲撃し、そして私を踏み台にするなど……、決して許さんぞ!」
「あっ……、あのちょっと……?」
戦いの緊張感高まる2人に、忘れられかけているジェネラルが控えめに声を掛けた。が、すでに臨戦態勢にある2人に、彼の声は届かない。
ミディは今まで下ろしていた剣をエクスに突きつけると、唇の端を上げて笑った。
エクスはその言葉に答えず、片手を突き出した。切りそろえられた爪が形を変え、
見る見るうちに肘ほどの長さのある鋭い刃物へと姿を変える。
「覚悟しろ!!」
「どこからでもかかってきなさい!」
「だっ、駄目だよ! 二人とも落ち着いて!!」
ジェネラルの叫び空しく、エクスはミディに踊りかかった。
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