り─林檎の木

 あるところに白くて大きい林檎の木が生えていました。小さな丘の上にぽつんとその木だけが立っていました。林檎の木は冬でも春でも夏でも、必ずいつも10個の実を実らせていました。実の色は金色でした。私は10代の頃、悲しくて泣きたいときはその林檎の木の側で泣きました。

 ある年のお正月、私の両親が死にました。私はまた、その林檎の木の側で泣きました。すると、林檎の木が話しかけてきたのです。

「来年の秋、私は100年振りに銀色の実を実らせるだろう。その実をお前にあげよう。それをお前が食べれば、お前の両親を殺した奴が死ぬ。それを見届けたら、私の元へ来るのだ。」

言い忘れていましたが、林檎の木は、秋だけは実をつけないのです。私は林檎の木のこの言葉を聞いて、とても驚きました。なぜって、両親が殺されたなんて思ってなかったし、林檎の木が話しかけてきたこと事態が信じられないことでしたから。私はもし、両親が殺されたのならば、その相手に復讐したいと思ったので、このように答えました。

「わかりました。ありがとうございます。」

 秋になりました。私は両親の死からは立ち直っていましたし、来年の春に結婚する約束もありましたから、林檎の木の元へ行くつもりはありませんでした。しかし、体が自然に林檎の木の元へと動いてしまうのです。仕方なく、私は林檎の木に例の話を断るために林檎の木の丘に行きました。林檎の木には銀色の実が成っていました。あまりの美しさに、つい、その実を手に取ってしまいました。気がつくと私はその林檎を食べていました。大変なことになったとは思ったのですが、とても美味しかったので、夢中になって食べました。私はふらふらしながら、町に降りて私の家に入りました。そこで、私は見てしまったのです。婚約者が死んでいるのを……。私は無我夢中に走って、林檎の木のところへ行きました。林檎の木は待っていた、というふうに

「どうだったかい?気持ちが落ち着いただろう?」

と言いました。私は

「こんなことになるなんて……。どうして?なぜ?ひどいわ!!」

と叫びました。林檎の木が言いました。

「それは一瞬の感情だよ。時が経てば、なくなってしまう。」

私は夜になるまで叫び続けました。そして、いつの間にか眠ってしまったのでしょう。辺りは明るくなっていました。私は林檎の木を見上げようとして驚きました。林檎の木がないのです。どういうことだろうと思い、自分を見てみました。すると、なんということでしょう。それは私の体ではなく、林檎の木、そのものだったのです。私は林檎の木になってしまいました。

 あれから100年が経って、今に至ります。さっき、12歳くらいの女の子が銀色の林檎の実を食べていきました。きっと、もうそろそろ戻ってくるでしょう。そうして、私はやっと自由になるのです。

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短編小説集 如月リマ @frappe

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