第13話 人海戦術
「そうか、全員が勝ったか」
カイ達の結果を聞いても、当主の男性は特に驚いていない。
強者の育て子なら、大人と子供の差くらいは埋めてくると考えていた。それがジョブ補正と称号補正の差でもある。
「荷物は揃ったか?」
「使えるモノは装備させます」
一旦小休止して、四人は体力と魔力を回復するポーションを飲んでいる。
「一対一は大丈夫のようだな。対人戦と集団戦も問題なさそうだ」
「ダンジョンの偵察と攻略も経験しています」
「モンスター戦の経験が偏り気味か。まぁ、仕方ないだろう」
「魔法戦は我流のようです」
「基礎を叩き込め、魔力操作に初級と下級は、適切なモノを」
ハーフや亜人、人間は、魔法の使い方がそれぞれ異なる。体内の構造も違うので、外科手術も苦労する事も多々あった。
「本人達の希望は?」
「剣兵一人に、銃兵一人、後方支援が二人」
適正と希望が合致し、リクが剣兵、ソラが偵察兵、カイとクウが支援兵に決まる。
「明日から兵隊の基礎も詰め込め。リースとフォースも使え。あの子達の部下に仕立てても構わん」
私兵達は当主の言葉を短く復唱して、それぞれの持ち場へ向かう。
休憩後、知性的武器の評価試験と連携を見ていくのだ。
カイ達はガイスト・アーマーを着込むと、得意な得物である知性的武器をリクから借りる。
「カイが槍、俺が剣、ソラが銃、クウは何にする?」
「鎌。もしくは斧」
両方あるので、クウに手渡す。
「鎌って使い難くないか?」
「草刈り用の鎌にすれば、足元を刈りにいけるし、振り回して牽制にもなる」
鎌の知性的武器は武器化したまま、内心で悲鳴をあげるしか出来ない。使い方が大雑把過ぎる上、草刈りにしか使った事がないと、クウの手中から繋がった縁を辿って知る。
(コレはヤバい!)
槍の知性的武器もカイの手から袖振り合う縁のようなモノを辿り、実戦が浅い事を理解した。
(棒と槍は違うのだけど……)
銃の知性的武器は、そこまで酷い使い方はされないと知り、少し安堵する。
鎧と剣の知性的武器は、武器同士の繋がりで、それぞれの知性的武器達を励ます。
(剣と槍も違うし、棒みたいにしか使えないって最悪ですけど)
槍の知性的武器は愚痴が止まらない。幸いなのは、カイには聞こえていない事だろうか。
リクが持つ知性的武器で槍と剣は多い。物量で押すなら、予備の知性的武器が人型になり、武器化した知性的武器を持って付き従うのが基本だ。
同系統の知性的武器しか使えない訳ではないが、剣の知性的武器が銃の知性的武器を巧く扱うには、それなりの訓練が必要となる。
斧や包丁ならそこそこ扱えるものの、料理や薪割りは普通程度。モンスターの討伐は出来るが、素材の剥ぎ取りは不慣れな剣の知性的武器もいる。
ショートとメイルは、リクの主力武装なので、家事も狩りもこなせるし、それだけ付き合いも長い。
「あんまり雑に使うなよ?」
「分かってる、いざと言う時は魔法を使うだけ」
リクは触覚魔法で誤魔化すのかと考えたが、クウはリクの情報を売る事で知性的武器の買収を考えていた。
知性的武器は縁で繋がった相手を知る事が出来るが、出会う前の事までは知れない。
そこにソラとクウは目を付けている。
カイの場合は、リクの私物を餌にする腹積もりだ。
ソラとリク本人にバレないよう、消耗品を部品単位で盗む。或いはリクの髪の毛を抜く。
正直、同性をつけ狙うのは避けたいので、なるべくならこちらの言う事を聞いてくれた方が助かる。
(念話は便利そうだけど、うるさいのはちょっと勘弁)
ソラやカイも、ショートの顛末を知っているので、念話での意思疎通はそこまで憧れたりはしない。
軽く点検を済ませていると、訓練場に案内される。
「この訓練場の屋内と野外にいる。アンノウンを識別して叩け。味方や民間人を攻撃すると、迫撃砲で撃たれるぞ」
「異能は使ってもいいのでしょうか?」
「金があるなら使ってもいい。相手は使わないが、民間人が反撃したり、味方が使う事はあるだろう」
健闘を祈る、そう言って私兵は訓練場の扉を開ける。
リクが最初に入ろうとして、扉の足元付近に張られたワイヤーを見つけた。
「罠はありなんですか?」
私兵は無言だった。
素早くショートを振り抜き、ワイヤーを切断する。
爆発物ではなく、上から扉の予備が降って来た。
「引っ掛け!?」
側転して扉をやり過ごすと、起き上がる前に銃撃される。
見ると、赤と青のバンダナをヘルメットに巻いた私兵と、革冑やラフな装いの人々から銃口を向けられていた。
敵味方、民間人の区別がつかない。迂闊に反撃して民間人を傷付けると、全員と迫撃砲の餌食。
盾で防ぎつつ、予備である盾の知性的武器を展開して鉄壁な肉壁にする。
開始早々に分断され、敵味方の区別も分からないという、嵌められたと言っても過言ではない状況だ。
「バンダナを巻いてないのは民間人だろう。青が味方か?」
「いや、赤が味方かもしれませんよ?」
鉄壁の真後ろを匍匐で、囲う外の壁伝いに横へと移動する。
飛んで来る弾はゴム製の模擬弾、向こうも弾切れするし、補給可能な場所も限られているはず。
鉄壁の向こう側から光と轟音が聞こえるも、スタン・グレネードの対策はしている。
人型だからとはいえども、知性的武器にスタン・グレネードは効果が薄い。中身がその辺の生物とは違うのだ。
魔法的や霊的なグレネードなら効くかもしれないが、光と音、爆風や衝撃波を伴う物理的なグレネードは、破片を嫌うだけの効果しか無い。細かい破片で表面に傷が付くと、リクに点検して貰う必要性が出てくるものの、稼働域も減る為、実戦では戦闘力も低下する。
効果は薄いが、速やかに戦闘を終わらせたいのが、知性的武器の本音だ。
鉄壁以外の遮蔽物まで辿り着くと、リクは予備達を盾に戻して、冑に剣を持たせて展開する。両方共に知性的武器であり、剣を手放せばそこから別に展開して、間合いと数的戦力を埋めていける。
飛び道具に対して突っ込む事になるのだが、そもそも知性的武器の人型形態に、人間の弱点はほとんど通用しない。穴や凹み、傷や亀裂が生じ稼働域が減るだけだ。魔法や魔力が込められているなら痛いが、ただのゴム弾や鉛弾、フルメタル・ジャケットなら破損しても魔力の補充による自己修復が可能だ。
更に言うと、知性的武器は人間よりも素早く動ける。補正や種族の差を上回る基礎能力値だ。道具なのだから生物の反応速度を凌駕出来て当然でもある。出来ないなら銃や剣が、モンスターには通用しない事となるだろう。
リミッターを外した知性的武器の全力稼働は、燃費が悪いので多用出来ないが、リクを搾れば魔力の補充も可能。つまり、動いても破損してもリクを狙う口実となる。
その事をリクだけが知らないし、知る前に気絶してしまうのだ。
ソラは知性的武器に確認を取る。出来る事と出来ない事はリクよりも少ない。ショートとメイル意外の知性的武器は特に制限が酷く、柔軟性を持たせた指示や、状況によった臨機応変な自己判断が難しい。
所持者と認められれば良いが、知性的武器が独自に決めるので、使い手が少ないのだ。下手すると武器化したままで周囲に認識されていない知性的武器もあるし、 うっかりリサイクルとして融かされたり海の底に沈んだままだったりもあり得るらしい。
「では、出来るのね?」
「投げるのと代わりないから、可能です。正確に狙う事は難しいですけど」
「リクに当たらないなら、それでいわ」
更にソラは、扉の前に立つ私兵へ問う。
「訓練場に入って、誤射や同士討ちしたら迫撃砲で撃たれるんですよね。味方はどう見分けるんですか?」
「そうだ。敵味方は色付きのバンダナを巻いている者。赤と青、どちらを最初に攻撃したかで決まる」
「なるほど。なら、訓練場の外から攻撃するのはアリですか?」
「アリだ。訓練場とはいえど、戦場の一部を再現しているからな」
戦場では、最前線では、綺麗事は言っていられない。
「なら、中の人は全員敵ですね」
試験官と門番を兼任している私兵が、ソラの発言に瞠目する。
「一般人は戦場の狂気に呑まれて、正常な判断が出来ない。或いはゲリラかも。良くて優勢な方に付く。逃げ遅れただけならともかく、武装したままの民間人は冒険者も同然。冒険者は戦場にはあまり来ないから、敵認定もやむを得ない」
ソラの台詞にクウも頷く。
「加勢した方が味方って言うのも、一方を倒した後で背後から撃たれるよね。強い方の味方で漁夫の利、邪魔者も始末出来る」
カイの言葉にソラとクウが同意し、私兵は更に驚く。
中立やコウモリなのは、全員の敵に成り得る。劣勢なら裏切り、優勢なら戦後に加勢した功績として、主張出来るからだ。
マリの教えでは病人や怪我人は治して、戦闘の補助として使え。濃紺の教えは子供や老人も武器が持てるなら、自分達の脅威になるので油断しない事。
敵の敵は味方ではなく、新しい敵だ。自分達以外は敵だ。撃って切ってをするなら敵、逃げる奴は増援を呼ぶ敵、加勢する奴は何か裏がある敵。
次々と銃の知性的武器が人型になっていき、武器化した知性的武器を自転車やガイスト・アーマーのパーツで組み立てた簡易投石機に載せる。
「リザーブの投下、開始!」
カタパルト式や梃子の原理、とにかく演習場の壁を越えられるなら、それこそ投擲でもいい。
リクの援軍や援護になれる。つまりは普段出番が回って来ない知性的武器達が、活動出来て経験が積めるし、修理や整備に魔力の補充としたスキンシップも可能となるのだ。
道理的に理想的な姿の所有者を愛でる。合法的なおねショタ展開は知性的武器の大半がストライク・ゾーンであり、仮に所有者が少女なら分からせ案件も辞さない。
呪いを昇華させた愛によって得た感情、生きる自我が背負う業や闇は深かった。
ロリやショタは、手取り足取り教えて、自分好みに育てられる。造り手が望むように自分達を作った以上、剣は切れるならそれで良く、銃は弾が出るならそれで良し。ならば使い手を好みに合わせて指導するのも、武器が人を選ぶ類いとなるだけ。
「……弾、ちゃ~く、今!」
「それって、人間大砲的な?」
「知性的武器の人型的な、降り注ぐ武器の雨霰よ」
上手くいかずに、障害物や建物の壁に当たる武器もあるが、地面に突き刺さって人型になる知性的武器が多い。
「マスター以外は敵! 逃げる奴は魔法を撃って来る敵! 向かって来るのは訓練された敵!」
「な、なんだ!?」
物量による人海戦術、数の暴力で押しに押し、確実に一人一人を無力化していく。
「こっちも反撃だ! 仲間に合わせて押せ!」
リク達は攻勢を強める。誰が味方か分からないが、知性的武器は確実に味方だ。マスターである自分の元に集まるなら、挟み撃ちも容易い。
リク達が戦ってしばらくすると、迫撃砲による迫撃が始まった。精度は初撃でリクの至近距離。爆風や破片、衝撃波を、知性的武器の人型による踏ん張りと押さえつけで留まる。
「くっ!」
爆薬が減らされた訓練弾だからか、威力こそ落ちているものの、リクはしばらく行動不能になる。上手く立てないリクを剣の知性的武器が支え、メイルとショートが代理で指揮を担う。
敵と中立な連中には迫撃砲の弾が降らないようだが、知性的武器達は仲間を盾にして殴り、次々と降して戦死判定にする。
迫撃の最中にも援軍は来る為、逐次リクの戦力は衰えない。
やがてリクが動ける様になると、その頃には敵も中立もいなくなっていた。
「……よくやってくれた。メイル、ショート。皆もありがとう」
「いえいえ、これもマスターと外の方々のお陰です」
作戦も何もあったものではない結果だが、明確な勝利条件も禁止された行為も、説明をされていない。
事前準備や作戦通りにいかない状況だったが、誰が見てもリク達が勝利をしている。或いは、継続戦闘が可能な状態なので、負けとは見られない。
状況証拠的に暫定勝利。最後まで立っている者が強いのだ。
一方、外側にいるカイ達は、私兵達に囲まれていた。
模擬戦用の武器を構えた一個小隊。間にガイスト・アーマーや知性的武器達を挟んで、ソラとクウが武器形態の知性的武器を、演習場へ投げ込む。
「演習場に武器を投げるのを止めろ!」
「部外からの支援が禁止になったのですか?」
「新兵以外は倒れたからだ」
それを聞いたソラ達が、手を止める。
「では、私達の勝ちですか?」
「そうだ」
鋼鉄の扉が開き、煤けたリクが現れた。援軍の知性的武器達は、ショートやメイルの中に収まっている。
「お疲れ」
「あぁ。でもさ、疲れたのが俺一人だけって酷くない?」
ソラ達が直接支援行動に入ったのは、私兵の小隊が現れてからだ。さして時間が経っていないので、支援したと主張したとしても、疲労はほとんど無い。
知性的武器達も少し損傷していたが、今では魔力による修復が終わっている。極短時間で済む軽微な損傷だけで、減ったのは修復分の魔力のみ。
(夜は点検して下さいね)
(わ、分かってるよ)
リクはため息を吐き、どこで点検と称した、知性的武器達によるリンチまがいな責めを受けるか考え込む。
「……新兵諸君の連携は見事だった。戦場では準備しても、作戦通りにいかない事が多い。と言う旨を理解していたな。即席の連携も同郷なら難しくもない。ま、一応の確認であり、この演習場での戦闘試験も、他の私兵達に見せる為のものだ。悪く思うな」
小隊のリーダーが、試験官の私兵に変わって説明していく。
「本日はここまで。翌日からみっちりしごくので、各兵科の訓練に励めよ」
カイ達は敬礼して、リーダーが敬礼を返す。
悪いスキルを有効活用してみた 元音ヴェル @1991
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