仕事人間だった先輩が僕に対してだけは甘すぎる件

スーパームーン

第1話

仕事人間だった先輩が何故か僕に対してだけは甘すぎる件



「えー、我が社の理論は、自分で考えることを大切にしています。ですから…」


はー。長い。もうかれこれ1時間も同じようなことを聞かされている。校長や社長という人たちは話を長くしないと死ぬ病気にでもかかっているのかよ。


俺ーいや、社会人だから僕の方がいいのか。改めて僕は菊池翼きくちつばさ新入社員だ。特に頭の良くも悪くもない学校だったが、名門と呼ばれているこの会社に入ることに成功した。なんでも業界の中では圧倒的トップで高月給だとか。


お、もう直ぐ終わる。





「えー、私からの話は終わりです。最後に第一営業課の高槻涼葉たかつきすずはさんにお話してもらいます。」


実はこの人はパンフレットで見たことがある。実績がすごかったのを覚えていて、憧れだ。


第一印象はとにかく綺麗だった。見るもの全てを魅了するような暴力的で、神秘的な綺麗さ。きっとこういうのを一目惚れって言うのかな?この時初めて俺は仕事に意欲を持った。それはとてもとても不純な動機だった。違う課でも一生懸命に仕事を覚えて出世すればお近づきになれるかもしれないと。よく考えてみるとお汁粉の10倍くらいは甘い考えだが全く気づいてはいなかった。





「どうも、第一営業課の高槻です。皆さん、まずは入社おめでとうございます。…」


仕事の内容や職場の雰囲気などが事細かに説明されていった。あの社長の話は左耳から右耳に抜けていったようなもんなのに不思議と脳内にくる。こんな人と結婚できたらいいなと妄想が膨らむが、どう見ても釣り合ってない。僕の良いところは少しばかり人より身長の大きい事ぐらいだ。








さて、これから僕の配属される課が決まる。勿論第1希望は第1営業課だが、そんなのになる確率なんてまず低い。仕事に対するやる気は俺と高槻さんじゃ釣りはうはずもないと思いながらも膨らんでいくばかりだ。なお、この男は気づいていない。彼は高槻さんレベルでないがアイドルとしてならスーパースターにまでのぼりそうな美貌であることに。





「えーと、菊池翼さん。貴方は第1営業課です。お仕事頑張ってくださいね。」


ぼくの心は小躍りしていた。勿論第1営業課であれば高槻さんとほぼ毎日のように顔を合わせる訳で、仲良くなる確率は他の課よりも断然多い。それでも1つだけ心配事があった。それは仕事の事だ。ぶっちゃけコミニケーションー能力は普通にある。でも問題はそこにない。高槻さんに見とれて仕事に集中できずにクビになるというのが考えられる限り最悪の事態だ。まあ、そんなこともないだろうと嫌なイメージを吹き飛ばして仕事場に向かう。第一営業課というフロアが見えてきて、そこに突っ込む。


「えーとあなたが菊池翼君であってるよね?」





「はい。僕が菊池翼です。これからよろしくお願いします。」


ぱっとこの課の人たちを見たけど、可愛いかったりきれいな女性が多い。それにほとんど女子ばっか。というか男子もいるにはいるけどイケメンだし。・・・僕にはきつい環境かもしれない。





「うん。これからよろしく。言い忘れてたけど私は鏡 雅かがみみやびだよ。後教育係さんの所にも行こうか。教育係っていうのは、仕事とかをいろいろ教えてくれる人だよ。見たら腰抜かすかもねー」


腰抜かすって、どう言う事だ?と思いながら興味本位でついていく。まあ、ついていかないわけがないんだけどね。これからお世話になる人だし、まずは挨拶しないとな。





「こんにちは、第一営業課の高槻です。って、名前は知ってるかな。よろしくね菊池君」


本当に腰抜かすかと思ったよ。と言うかどうすんだこれ。近くで見たら色白で二重でとにかく綺麗だし、仕事に集中出来るかが凄く心配だし。第一教育係が高槻さんなんて極度の緊張でおかしくなりそう。まともに喋れるかな?ま、そんなことは気にしてる暇はない。当たってだめなら砕けるだけだ。





「よろしくお願いします。」


よかった。とりあえず話せるくらいには緊張してないみたいだ。それにしても綺麗だなー。なんかずっと見ていられそうな、そんな気がする。こんな人と一緒にいられたら毎日幸せなんだろうなぁ。はあ。まったく何考えてるんだか。そんなことあるはずがないのに妄想が膨らんでる。そうだよ・・・あるわけないのに。





「おーーい。大丈夫?さっそく契約行くよー。と言って絵も最初は私がやるから。菊池君は見てるだけでいいけどね。百聞は一見に如かずだよ!」


うん。なんというか可愛い。というか絶対に断言できる。このままの態度だと絶対に勘違いしてフラれる人がいるよ。この優しさにおまけにあの用紙だ。僕もそのうち変な勘違いを起こしそうだ。そんなことないようにしなくては。きっと高槻さんは優しいから少し顔を合わせずらくなったり憐憫におもうかもしれない。絶対にそんなことにないようにしなくては。








「お疲れ様です。高槻さん。早速あんなパンパンと契約とれるなんてすごいですね。」


今日だけで契約3件もとってしまっ。それに1つはいわば会社に大きく影響するような、とっても大きな契約だ。凄いんだよなー。いつかこういうレベルで会社に活躍したいなと、初めて純粋な向上心を持った気がするよ。





「いやいや、菊池君だってこれぐらいの契約を取れるようになるよ!私が育ててあげるんだから!」


やばい、可愛い。高槻さんにもっと褒めてもらいたい。幸せだぁ。





「そっか。ありがとうございます!」








「さて、仕事も終わったし菊池君飲みに行かない?」


え?なにこれ、2人で飲むって…まさかデート…いや、ありえないか。でも気になるー。でもやっぱり仕事の話だろうなぁ。ま、期待してないぐらいがちょうどいいっていうしま気にしないで行こう…前言撤回、無理です。気にしないなんて無理だよ。





「荒木課長が菊池君歓迎パーティーをやろうっていうお話になって決まったんだよ。」


うん。だよね!デート何かって勝手に勘違いしてた僕がばかみたい。まあ、そんな都合のいいことなんてないってわかってるんだけど、一緒にいたいなぁ。綺麗だし、何より凄い優しいし。





「菊池君の入社を祝って 乾杯ーーー」


「「「「乾杯」」」」





「いやーしっかし高槻さんがあんな笑ってるのって入社してから始めてみた気がするなー。なんかばっちり仕事が第一みたいな感じだったのにねー」


え、意外だった。正直みんなと仲良くして笑顔いっぱいのかわいい勘違い男製造マシーンっていう感じしてたのにな。僕にだけあんな優しくしてくれたんだろう?うーーん、後輩になったからかな、それとも僕に好意があったからなのかな・・・


まあそんなわけないか。おそらく前者だろうな。





「鏡さん、でも意外ですね。高槻さんって結婚してるんですかね?」


そう、僕が一番気になるところ。正直高槻さんと結婚はしたい。けど、幸せになってほしいからもし夫がいるのなら僕はそれを尊重したい、、、って何言ってるんだろうね僕と釣り合うわけないのに。





「ううん、そういう話は聞いたことないよ。菊池君がいないときは言われなければずーっと仕事してるような感じだったしってあ・・・」





「あってどうしたんですか?」





「ねえ、いま高槻さんお酒飲んでるよね・・・彼女、すっごくお酒に弱いんだよねー。」








高槻さんがこっちに来てる。よく見ると顔が真っ赤だ。本当にお酒に弱いんだろうなぁ。顔が真っ赤な高槻さんも綺麗だなぁ。





「え?えええええ!」


「私、今日けいやくしゃんけんもとっらよけいやくしゃんけんもけいやくさんけんもとれたよー。翼君ほめてー」


何が起きてるの?なんか僕のおなかにぎゅーってしがみついてるし。少し話そうとしてみたけどしがみついてて離れないしそれに、思いっきり高槻さんの大きなものが当たってるから・・・柔らかいんだなぁ。


というかまず声が可愛い。いつもは芯が通っててかっこいい感じなのに今はぽわぽわしてる感じで凄い可愛い。だめだ、いろいろなことが一気に起こりすぎて脳がオーバーヒートしそう。


まあ、とりあえず甘えてくれてる通りに褒めてあげよう。





「さすが先輩ですねかっこよかったですよ」





「ありがほとう。褒められちゃったーエヘヘ」


なんかぎゅっとされる力が強くなった気がする。好きな人にぎゅっとされるって心がポカポカするっていうか、安心感と幸福感を感じるな。もう少しこのままでも・・・


うん、可愛い。それ以上の言葉が出てこないというかなんというか


とにかく可愛い。





「いつまでぎゅっとしてんの!今は離れてってば高槻さん。それは後で家でやって!


後輩君もめっ!だよ。それにしてもずいぶんお熱いことで。もう付き合っちゃえば?」


あのハグ、あの感覚、すごい幸せだっただなぁ。またもう一回、今度は高槻さんが酔ってないときに自分たちの意思でやりたいなぁ。刻一刻とその後の妄想でっ作り上げられた僕らの生活のフォーメーションが上がっていく。





「そろそろ時間も時間だしお開きにしますかね。菊池君、健闘を祈ってるよ」


ふう、終わった。今日はなんか一日が72時間くらいになったとしてもまだ濃い一日だったな。





「ごめん。ほんとごめん、昨日はあんな事…うぅ。」





全く気にしてないですよー。むしろ役得だったんだよなぁ。でも、もちろんそんな事を言えるわけがない。僕はそもそも善人じゃない。昨日の抱きつかれた時や柔らかい感触が一瞬フラッシュバックした。


もっとあれぐらい仲良くなれたら良いんだけどなぁ。





「いえいえ、気にしてないとはいったら嘘になりますが、別に嫌でも何でもないですから。」


うん。これが一番真実に近いかな?





「そっか、良かったぁ。私パートナーに嫌われたらやっていけないもの。それにしても優しいね菊池君は。


私はあんまりこう気を回せるタイプじゃないから凄いと思うよ。」


そうなのかもしれないけど、少なくとも僕の前では優しくて気の回る良い先輩だ。


だから言ってあげたいって。そんなことないって。ちゃんと言ってあげないと





「高槻さん、絶対にそんなことないですよ。優しくて気の回るとってもいい先輩ですし、好きです。」


ちょっと、勢いで言っちゃったけど・・・人間としてっておもってくれるよね。うん。





「ありがとう、私も好きだよ。優しいし親切だし。」







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