Chapter 76. 最終決戦の地へ
ナエの奇襲は、
心臓をめがけて飛んだ光弾がなぜ床を穿ったのかといえば、それは周防がナエの動きを見切って、素手で攻撃を叩き落としたからだった。
「やあ、君が和泉くんの守り神か。お目にかかれて光栄だよ」
「私を観測できるということは、あなたもキリエスと同じく、高次元領域から来た者というわけね……!」
「キリエスと同じは言いすぎかなぁ。僕はこの姿に戻らなければ君のことを知覚できないようだから」
全員の目の前で、周防の体がみるみる変質してゆく。
紅に光る眼は裂けるように見開かれ、肌は鈍色に染まってゆく。燃え落ちるかのごとく消失する
まるでキリエスと対を成すかのような姿。
嗤っているかのように大きく横に広がった口腔が、この場の誰もがよく知っている周防昌毅の声で、しかしこの場の誰もが聞いたことのない名を告げる。
「僕の名はロプター。風と共に歩む者なり!」
そして周防は――ロプターは、左手を前方に
暗灰色の掌から膨れ上がった光球が、先刻のお返しとばかりにナエへと飛ぶ。
「……っ!」
ナエに避ける選択肢はない。かわせば和泉に当たるか、和泉が反応できたとしてもSSS-Uの誰かを巻き込んでしまうかもしれないからだ。
そんなナエの心の動きが、一瞬の視線の動きから読み取れた。
後者を考える程度にはナエの中にも人間への情が芽生えていたという事実を、和泉はさほど驚きもなく受け止める。
――あるいは、
あるいは、最初からそうだったのかもしれないとすら思う。
もしかしたらナエは、キリエスに課せられた使命を第一とするためにずっと己を律して、人間への情を押し殺していただけだったのかもしれない。
ナエが両掌を突き出してバリアを張る。
着弾。
蒼い光の障壁に波紋がたつ。エネルギーの揺らぎの激しさが、ロプターの光球の威力を物語っている。
「く……!」
「ナエっ!」
小さな唇から苦悶の声が漏れるのを耳にしたとき、和泉の脳内からあらゆる種類のためらいが消え去った。
後のことなど後で考えればいい。
レキウムを研究していたロプターからは黄昏について何事かを聞き出せるかもしれなかったが、それはもう二の次だ。周防と決着をつける。その言葉の意味が「彼を倒して捕らえること」から「討ち滅ぼしてでも止めること」へと変じる。
「キリエス――――ッ!」
和泉は吼え、バイフレスターから光を解放した。
藤代が、
山吹が、
唯が、
サクラが、
それぞれ烈光から目を庇って顔を背ける。
どこまでも蒼い光に支配された部屋で、和泉とナエの心身が融け合う。
光の嵐が静まったとき、SSS-Uの面々にはもとより見えぬナエはもちろん、和泉の体までもが幻のように消え去っていた。
代わりに立っているのは、銀と蒼に彩られた戦士。
いつもはビルのように巨大なその姿が、今、人間と変わらぬ大きさでブリーフィングスペースに収まっている。
「現れたね、キリエス」
「――WoOooooh!」
ロプターとの対話には一切応じない。
キリエスは瞬間移動じみた速さで怪人に掴みかかると、そのまま真上へ向かって弾丸のように飛翔した。頑強きわまるはずの基地の天井をものともせずに突き破って、いくつものフロアを貫通しながら空の彼方へと飛んでゆく。
警報が鳴り響きだした。ブリーフィングスペースに設えられたライトが、狂ったように回転しながら不快な色の光を四方八方に振りまきはじめる。
「隊長!」
残された四人のうち、最も早く反応したのは山吹だった。
「レーベンでキリエスを……いや、和泉を追います!」
「……そう、だな」
頼んだぞ――そのように促しかけて、藤代はふと口をつぐむ。
「いや、待て山吹隊員。これはおまえだけに任せていい話ではない」
すでにブリーフィングルームを飛び出そうとしていた山吹が立ち止まり、振り返った。
苛立ちと当惑とがない交ぜになった視線を真っ向から受け止めて、藤代は改めて口を開く。
「私も行こう」
「――隊長、だったらあたしも!」
サクラが追随して声をあげた。
藤代は頷く。電子戦を得意とするサクラが現場に出たところで頭数が増える以上の意味はなかろうが、かといって自分も周防もいないまま彼女だけ基地に残してもさしたる働きは期待できまい。
それに、何よりも――
「山吹隊員と桐島隊員がレーベン一号機。私とノードリー隊員がレーベン二号機で出る。和泉を援護し、周防を止めるぞ!」
何よりも、これはSSS-U全員で当たらねばならない仕事だ。
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